第25話
「そういえば、君ももう高校生だったよな。あんまり久しぶりなものだったから、俺の中で君はまだあの頃と同じ小さな子供だったっていうか……とにかくすまない、失礼だった」
「い、いや、僕の方こそ必要以上にびっくりしてしまって……」
そう言いながら、僕は洋一さんじゃなくて、彼の後ろにいる女の人へと視線を向けた。
知らない人の持ち物を使って、僕に近付こうとする洋一さんが嫌だったなんて正直に言えるはずなかった。姉の恋人だった人がわざわざ遠くから来てくれたのに、僕の方が不愉快にさせたんじゃないかと不安になる。その気持ちのせいで、女の人を見てしまったんだと思う。彼女もそんな僕に気付いたのか、そろりと洋一さんの後ろから出てきて、深々と頭を下げてきた。
「初めまして。
ストレートな髪を背中まで伸ばした、少し痩せ気味な女性だった。だからといって健康的ではないといった感じは全然しなくて、何ていうか、妙に儚いような雰囲気があった。さっきのように洋一さんの背中の向こうで守られてるみたいにして立っていないと、どこへともなく掻き消えてしまいそうな、そんな感じがした。
そう思うと同時に、僕はこの女性の存在に疑念を抱いた。
姉がいなくなってしまった当時の僕の記憶は年を重なるごとにどんどんぼやけてしまってはいるものの、所々の大事な部分はまだ鮮明に覚えている。例えば姉の葬儀の時、洋一さんや美喜さんはもちろん、担任の先生も他のクラスメイトの人達も皆来てくれて、とても悲しそうな顔で姉を偲び、見送ってくれた。だが、その中にこの女性――みゆきさんの顔をどこにも見つける事ができなかった。
初めましてと言ってきた以上、姉を知ってる関係者じゃない。そう確信を得た僕は、美由紀さんをにらむように見つめ続けた。いったいどうして、そんな人が洋一さんと一緒にこの場にいるんだ……?
自己紹介を返す事もなく押し黙っている僕の視線の先が、自分に向けられていないと悟ったらしい洋一さんは、またみゆきさんを守るように彼女の前に立つ。その仕草は、かつて姉にしてくれていたものと全く同じだった。
「洋一さん?」
いぶかしみながら名前を呼んだ僕に、洋一さんはふうっと大きなため息をついた。そして、外の物音を聞き付けたらしい父が玄関の向こうから姿を現してきたのとほぼ同じタイミングで、こう言ってしまった。
「彼女――みゆきは仕事先の同僚で、今の俺の恋人。来年、式を挙げる予定になってるんだ」
ずいぶん古典的だけど、頭を思いきりトンカチで殴られたような衝撃が走った。僕は、次に父に話しかけられるまで、今度こそしばらく呆然となってしまっていた。
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