第15話
『紹介するね。瀬川洋一君、お姉ちゃんの大事な人だよ』
洋一さんと初めて会ったのは、姉が高校に入って少し経ってからの事だった。僕はまだ4歳になったばかりだったが、珍しい事もあるもんだなと思って聞いていた。
何故なら、姉が家に美喜さん以外を連れてきたのが初めてだったからだ。美喜さんは保育園からの親友だと聞かされていたし、放課後はいつも一緒にいたから、彼女が家に遊びに来るのも当たり前だった。それなのに、あの日姉が家に連れてきたのは洋一さんだけで、美喜さんの姿はどこにもなかった。
不思議に思った僕は、何の躊躇もなく尋ねた。
『お姉ちゃん、美喜ちゃんは?』
『え?』
『何で美喜ちゃんはいないの? 美喜ちゃんは大事じゃなくなったの? もしかしてケンカしちゃった?』
僕のそんな言葉を聞いて、姉も洋一さんも困ったように互いの顔を見合わせていたが、やがて洋一さんが僕の目線に合わせるようにしゃがみこんで、こう言ってくれた。
『大丈夫だよ。お姉ちゃんも美喜ちゃんも、いつも通り仲良しだから』
『じゃあ、何で今日は美喜ちゃん来てないの?』
『ううん……それはね、お姉ちゃんの大事が増えちゃったからだよ』
一度言葉を切って、洋一さんは姉を見上げる。姉はどこか安心したかのように、こくんと頷いていた。
『洋一君の言う通りだよ』
そして、洋一さんの言葉を継ぐように姉も口を開いた。
『お姉ちゃん、ちょっとぜいたくだから、大事な人をもっと増やしたくなったの。でも、その大事はいっぺんには抱えきれないから、これからは順番こにするんだ』
『順番こ?』
『そう。今日はたまたま、洋一君なだけ』
『じゃあ美喜ちゃん、またうちに来る?』
『もちろんよ。美喜だってお姉ちゃんの大事な人だもん』
『僕は?』
『え?』
『僕も、お姉ちゃんの大事?』
姉は、すぐにそうだと言ってくれるものだと思っていた。だが、この時姉はちょっと驚いたように僕を見つめたまま、なかなか返事をしてくれなかった。
不安になった僕が『お姉ちゃん?』と制服の裾を引っ張ってみせると、そこでやっと姉は我に返ったかのように急いで笑顔を作りながら『当たり前じゃない♪』と僕の頭を撫でてきた。その手は温かかったけど、どこか震えているようにも思えた。
それから姉がいなくなる日まで、洋一さんと美喜さんは代わる代わる遊びに来るようになったが、三人が揃ってうちに来た事はついに一度もなかった。
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