第5話

スマホで軽く調べてみたら、十三回忌ともなると、親族や知人を呼ぶ事はなく、家族だけで営み事が一般的だと書かれてあった。だが、父は「七回忌をしてやれなかったんだから、十三回忌の通知はしようと思う。無理強いをするつもりもないが、それで来てくれた人達と俺達とであの子を思い出してやればいい」と言って、すでに用意していた通知用のはがきを僕と母に見せてきた。


 昨夜、遅くまで書斎にこもっていたのはあれの準備をしていた為かと納得した僕の目に、ある二つの名前が飛び込んできた。わざと僕に見せるようにしていたのか、それともただの偶然なのかは分からなかったが、僕はその二つの名前を無視する事なんかできなくて、「父さん」と声をかけた。


洋一よういちさんと美喜さんも、呼んであげるの?」

「ああ」


 父がこくりと頷いた。


「七回忌をしなかった時、二人からそれぞれ連絡をもらってなあ。あの子がこの世に生きていた大事な証なのにって、さんざん怒られたよ。だから、な?」

「洋一さんはともかく、美喜さんはどうしてるのか分からないんじゃない?」

「ひとまず、実家に送るよ。もし来てくれなかったら、それはそれで仕方ない」


 そう言って苦笑いを浮かべる父だったが、反対に母はさらに上機嫌になっていった。


「何言ってるの、お父さん。洋一君も美喜ちゃんも来てくれるに決まってるじゃない。二人とも、あの子にとって大切な人だったんだから」


 ねえ? と、母は僕の方へと視線を向けて、同意を促してくる。姉にとって、二人は大切な存在。それだけは確かにそうなのだから、僕は迷わず頷いた。






『いやあぁっ! 何で!? 何で死んじゃったのよぉぉぉ!! こんなのやだあぁぁぁ!!』

『会えないんですか? 俺、せめて最後に一目会いたいんです。お願いです、おじさん。会わせて下さいっ、会わせて……うあああっ~~!!』






 葬儀の時、それぞれそう泣き叫びながら棺桶にすがり付いていた姉の同級生の二人。他にもたくさんの人達が弔問に来てくれていたけど、僕達家族以外にあそこまで悲しんでくれたのはあの二人だけだった。


 もしかしたら、あの二人ならどうして姉がいなくなってしまったのか分かるかもしれない。姉と同じ世界にいた人達なんだから。


 そう思ったらどうにも落ち着かなくなってしまった僕は、さらに詳しい何かを説明しようとしていた父の言葉を遮って、「うん、十三回忌ね。分かった」と答えてから、残りの食パンを急いで胃に収めた。

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