第41話
†
『私の知らない未来にいる塔子と、塔子の大切な人へ。
まずは、塔子に。
塔子がこの手紙をいつ読んでくれているのか、今の私には全く分かりません。でも、ものすごく月並みな事を言うようだけど、きっと塔子がこの手紙を読んでいる頃、私はもうこの世にはいないと思います。
塔子、一緒にタイムカプセルを開ける約束を守れなくってごめん。
実は黙っていたんだけど、今年に入ってから、どうも発作を起こす間隔が短くなってきてて、その大きさもだんだんひどくなってたの。学校や塔子の前ではずっと我慢してたから、たぶん塔子は私の病気は治りつつあるんじゃないかって安心してくれてたと思うんだけど……嘘つくみたいな感じになってて、本当にごめん。さすがに二十歳は迎えられると思うけど、どっちみち、そんなに長生きはできないと思います。
だから、塔子にタイムカプセルをやろうって話を持ちかけました。高校を卒業しちゃったら、きっといろんな理由で塔子とはなかなか会えなくなるだろうから、今のうちに塔子に言い遺しておきたい事を手紙に書いておきたくて。でも、バカ正直にそんな話をしたら、塔子が自分の人生の選択を後悔するんじゃないかと思った。やっぱり就職やめて、この町に残るとか言い出すんじゃないかって……。
何度も何度も言ったけど、私は塔子と出会えて本当に嬉しかった。塔子の優しさとバカ正直さに何度ありがたいって思ったか、どれだけ心強かったか……。高校生活のたった二年間だけど、私にとって塔子と一緒にいられた日々は宝物でした。
だからこそ、塔子とはこれからも対等でいたいと思った。いつまでも塔子に支えられて甘え続ける事より、いつか塔子に大変な事が起こったら、少しでも私が支えになれるような、ほんのちょっとでも甘えてもらえるような、そんな対等な関係でいたいと思ったから、決意表明のつもりでこの手紙を書き残します。
ねえ、塔子。私、頑張る事ができたかな?
自分のお店を持つって夢、叶えられた? 私の選んだ服とか小物とか、お客さん達は喜んでくれてた?
あと、大好きな人(できれば、甲斐崎先生だったらいいなあ)と結婚はしてたかな? このタイムカプセルの事は、その大好きな人に後を託すようにしておくので、たぶんそれは大丈夫だとは思うんだけど。
ああ、そうそう。塔子が書いた私宛ての手紙だけど、その大好きな人に預かってもらうから。それで、私が死んだ後、棺桶に入れてもらえるように頼んでおくから、天国でじっくり読ませてもらうね。たくさんいい事、書いてあるといいなあ。今からとても楽しみです。
そして、塔子の大切な人に。
初めまして、南詩織です。
夫や塔子から話は聞いているかもしれませんが、私は高校時代、塔子には本当にお世話になりました。塔子の何だかんだ優しいところや、隠し事のできないバカ正直な性格に、ずっと一人で苦しんだり悩んだりしていた自分はずいぶんと救われたような気持ちになって、残りの人生をあきらめずに前向きに生きていこうと思えるようになりました。
きっとあなたも、そんな塔子の魅力に惹かれて、今一緒にいるんだと思います。
そんなあなたに、一つだけお願いがあります。
どうか、これからも塔子の側にいて、一緒に幸せになって下さい。
塔子は一度思い悩むと、ひょっとことおかめが混ざったような感じの変な顔になります。もし、あなたの側で塔子がそんな顔になったら、どうか話を聞いてあげて下さい。そして一緒に悩んで、一緒に考えて、一緒に解決してあげて下さい。
私はもう、塔子に何もしてあげられないので、どうか私の分もそうしてあげてもらえると嬉しいです。塔子は、それだけの価値があるとても素敵な人なんですから。
私の知らない未来にいる塔子と、塔子の大切な人へ。
私の思いを、あなた達に託します。どうか、どうか幸せに――。
南詩織 十八歳
高校卒業式二日前に、これを綴る』
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