第30話

え……何で、何で?


 だって、女子のバレー代表ってクラスで五人だよね? これって、クラスの女子の人数を考えたら、当たる確率だいぶ低いんじゃない? それに私でなくったって、運動神経のいい子は他にもいるし、現役のバレー部員だっているのに。それなのに、どうして運動オンチな私に当たっちゃう訳? 無理だよ、こんなの。絶対私じゃクラスの足を引っ張る、確実に一回戦敗退になる。


 私のせいでクラスの空気が悪くなるのは我慢できないし、申し訳も立たない。「誰がバスケとバレーの選手になった~?」と軽い口調で言ってくる増田君に、私は慌てて言った。


「ま、増田君! あの、私……」

「うん? 何だ、三嶋が当たったのか? じゃあ、バレーよろしくな」


 増田君は、赤丸の入った紙を持っている私に気が付くと、ゆらゆらと手のひらを振りながらそう言ってきた。


 思い返せば、増田君と会話をするのはずいぶんと久しぶりだった。詩織の病気の事を聞き出そうとしてそっけなくされた時以来だったと思うし、ここ最近はその詩織と一緒に行動する事も多かったから、彼女から解放されたと有頂天になっていた増田君からすれば、もう私と話す事などないと思っていたのかもしれない。だから淡々と、それでいて軽すぎる口調で頼んできた彼に納得できない気持ちも重なって、私はさらに言葉を続けた。


「いや、その……ごめんだけど、私、選手を辞退したい!」

「はあ?」

「だって皆、私が運動オンチだって事知ってるでしょ!? この間の体育のハンドボール投げだって、私が一番ビリだったのも見てた訳だし……。そんな私がバレーの代表なんて、絶対足引っ張るよ!」

「いやいや、三嶋お前……。くじで決まった事なんだから、観念しろよ」


 何、一人でそんなワガママ勝手な事を言ってんのと責める気持ちを織り交ぜた言葉をぶつけてくる増田君。確かにくじは平等だったし、当たってしまった私の運が悪かっただけなのも分かる。傍目から見たら、私がワガママ勝手な事を平気で口走っているふうに見えるのも仕方ない事なんだろう。でもやっぱり、もっと球技が得意な子と変わってもらった方がいい。その方がきっとクラスの空気が必要以上に悪くなる事もないだろうし、選手になる事以外だったら練習のお手伝いとか、その他でも何でも協力するから……。


 増田君の言葉の圧に押されて、その気持ちをなかなか口に出せなかったけど、やがてそれを汲んでくれたのか、クラスの端の席に座っていたバレー部の田中たなかさんが「じゃあさ、私が三嶋さんの代わりに……」と言いかけてくれた、その時だった。

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