第28話
「三嶋さんと私が、初めて話をした時の事」
そこまで言われて、私はようやく思い出した。それくらい、その頃の私は詩織と一緒にいるのがごく自然で当たり前になっていて、何の事情も知らずに強引に体育の授業に参加させようとしていた事や、一緒のクラスになった事が嫌で仕方ないと思っていた事などすっかり忘れていた。
バツが悪くなった私は、とっさに「ごめん」と早口で謝ったけど、当の詩織は全くと言っていいほど気にしていなかった。本当に大事な思い出なんだと言ってくれているかのように、そっと両目を閉じて空いている左手をそっと胸の上に添えた。
「謝らないでよ。私、嬉しかったよ? 違うクラスなのに、三嶋さんが声をかけてくれてきてくれて」
「え?」
「あの頃の私、どこか縮こまっちゃってたんだよね。事あるごとに保健係だった増田君に迷惑かけまくったし、そんな空気が教室中に広がっちゃって、クラスの誰も私と深く関わろうとしてくれなくなっちゃって……うん、ちょっと孤立してた。そんな時に、三嶋さんが声かけてくれたから、本当に嬉しかった」
「……」
「あの時の三嶋さんね、まるで金の粉をまぶしたみたいにキラキラしてたよ」
……やめてよ。あの時、私はそんなつもりで声をかけたんじゃないのに。
ただ、単にズルいって思っただけ。私だって体育の時間はずっと休んでいたいし、体育館やグラウンドの隅っこで見学していたかっただけ。そんな時に詩織を見つけてしまったから、単純にいいな、うらやましいなって思ってしまって、強引な事をしてしまっただけなんだ。
それなのに、そんな私の気持ちを知りもしないで、詩織は私に感謝している。あの時は嬉しかったよって言ってくれている。こういう詩織にこそ、キラキラと輝く金の粉が必要であり、私の方がそんな詩織に出会えた事は嬉しくもあり、また喜びだった。
「……も、もう! 変な事言わないでってば!」
でも、この気持ちを詩織のように正直に伝えるのは何だかとても恥ずかしくって、私はまた強引な部分を出して話を終わらせると、弁当箱の中身を食べるのに夢中になっていくふりをする。そんな私を見て、詩織はクスクスッと笑いながら言った。
「だから私、三嶋さんと同じクラスになれてよかったって思えたんだよ」
そう言ってもらえた時の事まで思い出してしまった私は、おばあちゃんが弁当箱の中に入れてくれたタコ型ウインナーと同じくらい顔が赤くなっていくのを感じた。「だ、だから! そういう事言うのはなし!」って必死に遮ったけど、詩織はずっと嬉しそうな顔でこっちを見つめ続けていた。
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