第21話

「保健係になったんなら、一緒に行かなくちゃだろ?」


 私は腑に落ちなかった。確かに増田君の言う通り、保健係は体調が悪くなったクラスメイトを保健室まで連れていったり、その子が休んだ授業のノートを代わりに取ってあげたりするのが主だった仕事になる訳だけど……。


「何で?」


 私の口からそんな反発の言葉が出た事で、またクラスの半分からざわついた。今度は、さっきまで冷めた目で詩織を見ていた子達の方であり、増田君もまさか私がそう返してくるとは思ってなかったようで、その大きな目を丸くさせていた。


「何でって……」

「だって南さん、一人ですんなり行っちゃったじゃない。保健係って、一人で行けない子の為にある訳でしょ?」


 それに、あの変な容器の中身を吸って元気になったんなら、別についていかなくても……と言いかけた私に、榊先生の「何だ、今年は三嶋が保健係なのか?」という言葉が被さってきた。


「じゃあ、南の様子を見に行ってくれ。ついでに南の弁当箱も一緒に持っていってくれると助かる」

「えっ!?」

「さっきも言ったが、南は五時限目が始まるまで戻らないだろうからな。よろしく頼むぞ」


 榊先生はそう言うと、わざとらしく私から視線を外しながら「全員にくじは回ったか~?」とホームルームの続きを促していく。私はムカムカと腹が立っていった。


 何で、そうなるの? お昼休みに南さんのお弁当を持っていくってなったら、私も必然的に自分のお弁当を持って行かなくちゃいけなくなるじゃない。言葉にこそ出さなかったけど、それって南さんと一緒にお昼ごはんを食べてあげなさいって事なんでしょ!?


 私にだって、都合ってものがあるのに。一緒にお昼を食べたい子だっているし、これから仲良くなってみたいって思ってる子もいる。図書室に置いてあるって聞いたファッション雑誌もその子達と一緒に読みに行きたかった。それなのに、どうしてそうなれそうにない南さんを私だけに宛がおうとなんて……。


 誰かに助けてほしかった。誰か一人でもいいから、「三嶋さんだけに押し付けるのはよくないと思います」と言ってくれないものかと。でも、誰も何も言ってくれなかった。


 それだけ、あの頃の詩織は変に悪目立ちしていたところもあったから、必要以上に関わり合いになりたくないとでも思っていたのかもしれない。自分が一緒にいる時に万が一にでも取り返しの付かないような事が起こったらと、臆病になりすぎていた事もあったと思う。詩織がその事にどれだけ申し訳ないと思っていたかなどまるで気付けないくらい、あの頃の私達は無知で、残酷で、何もできない子供だった。

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