第19話

そんな私と詩織の二回目の会話のきっかけとなったのは、それから三日ほど過ぎたある日の四時限目での事。その時間は担任のさかき先生の鶴の一声により、クラス全員に割り振られる委員会や係を決めるホームルームへと充てられ、まるで当然の事のように教室中はブーイングの嵐と化した。


 うちの学校は、わりと委員会の数が多かったと思う。学級委員会や図書委員会、放送委員会なんてずいぶんありきたりなものもあれば、誰も見向きもしないような百葉箱の温度計をチェックしに行く観測委員会なんてものまであったし、係に至っては委員会より十近く多かったのではないだろうか。そのどれもこれもを非常に面倒くさいと思うのもまた若気の至りだったので、私もそのブーイングに便乗していた記憶がある。


 だが、ベテランと呼ばれる年齢に差しかかっていた榊先生にとって、そんな小さな反乱なんて想定の範囲内だったのだろう。ブーブーと文句ばかりを言い連ねる私達に一切動じないどころか、やたらにこにこと笑みを浮かべながら、やがて教壇の上に一つの箱をどんと置いてから、有無を言わさない勢いでこう言った。


「皆、そうやって嫌がって全然話が進まないだろうから、先生がこうやってくじを作っておいたよ。これなら何の委員会や係になっても平等だし、嫌なものであれば後で誰かと交換してもらうといい。現状、先生にはこれ以上の案が浮かばないが、皆はどうだい? 他に案があるなら、先生はそれに従うが?」


 あ、これはダメだ。榊先生の案に従わないという選択肢などない。瞬時にその事を悟った私達は、数分後にはおとなしく出席番号順にくじを引いていく事になった。


 手首から先くらいしか入らないほどの小さな穴に指先だけを突っ込んで、最初に触れた谷折りの小さな紙を引っ張り出す。私の順番になった時点で箱の中身は半分以上減っていた訳だけど、確かに榊先生の言う通り、このやり方なら誰に何が当たっても平等だ。後はあまり面倒事の多くない委員会か係に当たる事を祈るだけ。そう思いながら、私は手のひらの中の紙を開いた。すると。


「あ、保健係だ……」


 思わず、そんな言葉が口をついて出る。そしたら、私の前の席に座っていた増田ますだ君の背中がゆっくりと上下に動いたのが見えた。そして。


「やった、やっと南から解放される……」


 と、心底安心したかのような彼の小さな独り言が聞こえてきた。何の事が一瞬よく分からず、私が首をかしげたその時だった。

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