第12話
「お二人は、どこでお知り合いに?」
「え……私達は」
「職場です」
今の状態の私達にはあまりにも微妙な話題だったから、黙りこくっているものだと思っていたのに、意外にも直之が私の言葉を遮って答えてきた。
「俺が勤めている会社に、塔子が高卒で入社してきて、何度か一緒に仕事をしている間に……といった感じでしょうか」
「そうなんですか」
「甲斐崎さんは、奥様とはどこで」
「私も、職場でです」
甲斐崎さんのその言葉に、私はあれ? と、少し疑問を持った。
詩織は高校を卒業した後は、通信コースも取り入れている服飾系の専門学校へと進路が決まっていた。本当は普通コースに入って自分の足で通学したがっていたけれど、あの子の病気の都合上、それは決して叶わなかった。
もし、その通信コースも無事に卒業できて、私より少し遅く就職していたとしたら、甲斐崎さんとはその服飾関連の職場で出会ったのだろうという仮定が生まれそうになったが、彼の今の格好を見て、やっぱりそれは違うと思った。
『いつか、おしゃれなお店も持ちたい。それで大好きな人達に、私が選んだ服を着てもらいたいの』
また、詩織の言葉を思い出す。ああ見えて、意外に一途というか頑固っぽいところがあったから、一度言い出したら絶対にやってみせるという気概の持ち主だった。だから、甲斐崎さんが本当に詩織のご主人なのだとしたら、真っ先にその気概の影響を受けるはずなのに、門扉の前で出会った時といい、今といい、とてもそうは見えなかった。
だからだろう、次の甲斐崎さんの言葉にものすごく納得したし、しっくり来た。
「私の職場に、妻がやってきたんです。結婚生活はほんの数年程度でしたが、出会ってからは長かったです」
「甲斐崎さんの職場に、ですか?」
直之が不思議そうにオウム返しをしているが、私は何となく察しがつき始めていた。おそらく……いや、十中八九この人は。
「ええ、そうです」
甲斐崎さんが言った。
「私、この町から少し先にある総合病院で医者をしているんです。妻は、私がずっと担当していた患者だったんです」
ああ、やっぱり。ほんの少し心構えができていた私は何とか平静を装う事ができていたが、直之の方はそういう訳にはいかなかったらしく、大げさなくらいにぽかんと口を開けて分かりやすく驚いていた。
「え? えっ……!?」
「嫌だな、そんなに驚かないで下さいよ」
直之のこの反応にも慣れてしまっているのか、甲斐崎さんはまたあははっと笑う。嫌だななんて言っているものの、どこか嬉しそうに……いや、とても幸せそうに見えた。
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