第4話
†
『拝啓
初めまして。まずは、見も知らぬであろう人間がこのような手紙をお送りした件、さぞや驚かれている事だろうと思います。突然のご無礼をどうぞお許し下さい。
私は甲斐崎雄一郎と申します。あなたの高校時代の同級生であり、旧姓・
実は少し前に、妻の詩織が逝きました。あなたもご存じかと思いますが、幼少期より患っていた病気が悪化しての事です。
妻の病気の事は承知で結婚し、最後に入院した時もそれなりに覚悟を決めていたつもりだったのですが、
彼女と出会ってからそれまでの日々があまりにも幸せで満ち足りていた事から、いつの間にか私は勘違いするようになっていました。
本当は妻は病気などではなく、これからも元気でずっと私の側にいてくれるものだと。ずっとこの輝かしい日々が続くものであると。
ですが、今こうして、詩織の遺影を前にしてあなたに手紙を書いていると、「ああ、やっぱり現実なんだな。詩織はもういないのだな」と納得せざるを得ません。
この手紙を読んでいるあなたは今、きっとひどく混乱されている事でしょう。旧友が亡くなったというだけでもおつらいでしょうに、どうして私がこんな手紙を送ってきたのかと。
どうしてなのか、私にも分かりません。……いいえ、失礼致しました。言葉選びを間違えました。
もっと正確に言いますと、私はただ、妻の遺言に従っているだけなのです。
妻は亡くなる数日前に、私にいくつかの遺言を残しました。その中には私に向けてのものもあったのですが、あなたに充てたものが三つもあったのです。
一つは、こうして私が手紙を送る事で自分の死をあなたに知らせる事。もう一つは妻が亡くなって四十九日が過ぎたら、どうかあなたとそのご家族、もしくはそれに等しい大事な
そして最後の一つは……これは妻の遺志により、来訪していただいた際にお話したいと思っております。
突然のお知らせ、そして何よりも身勝手なお願いではございますが、何とぞ妻の最期の願いを聞いてやっては下さいませんでしょうか。
連絡先を同封致します。お手すきの時で構いませんので、どうかご連絡を下さい。お待ちしております。敬具。
追伸 高校時代は、妻が大変お世話になりました。彼女も、心から感謝しておりました。』
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