第128話
ドカアァァン!!
目の前に見えていた『natural』の入り口ドアが、爆発音と共に木っ端微塵に吹っ飛んだ。そこから勢いが全く衰えない炎が舐めるようにして出てきて、こちらをあざ笑うかのように広がっていく。
チリッと、すぐ耳元で火の粉が爆ぜた。俺はすぐに青年を羽交い絞めするように抱え上げると、そのまま引きずるように『natural』から遠ざけた。
「ここから離れるんだ!巻き添えを食うぞ!!」
「嫌だ!美香、オーナーさ~ん!」
燃える『natural』に向かって、青年が悲痛に叫ぶ。それをすぐ側で聞いて、俺は胸が苦しかった。
分かるよ。大事な人は、自分の手で守りたいよな。俺だって、この場に藍子がいたら、消防士だとかそんなもん関係なしに真っ先に助けに行く。絶対に自分の手で守り抜きたいと思うよ。
でも、現実はそうじゃない。君は、万能無敵なスーパーマンじゃないんだ。このまま飛び込んだって、きっと何もできずに…。
「離せ、離せ~!」
「落ち着け!要救助者達なら、救急車の所にいる!もしかしたら、そこにいるかもしれない!」
そう言って、俺は青年を安全な所まで引きずっていった。そこには一人の女性が呆然と座り込んでいたが、ここまで連れ出せばもう炎の熱気も届かないだろうと、俺は再び『natural』の方を見やった。
「え…?」
「しっかりしろ。きっと、そこにいるだろうから」
そうだ。きっと、彼の大事な人は無事でいる。万が一、まだ取り残されていたとしても、絶対に助け出してみせる。だから、もう…。
俺が再び『natural』の方へと走っていくと、ちょうど飯塚が二人分の酸素ボンベの準備を終えたところだった。
「行くぞ上岡、全員助ける!」
「当たり前だ!」
互いに強くそう誓い合って、ずっしりとした酸素ボンベを勢いよく背負う。そして、他の消防士達が機転を利かせて排気と放水をしてくれていた大窓の所から、店内へと入っていった。
その瞬間、俺の耳には微かに救急車のサイレンの音が聞こえていた。まさか、この遠ざかっていく救急車の中に藍子が乗っていただなんて思いもしなかった。
ただ、この炎の中に取り残された誰かを救う事しか、頭になかった。
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