第127話
俺達が現場入りできたのは、予定より十分以上も遅れての事だった。
その間『natural』はすさまじい炎と煙に包まれていたが、俺達が着くまでに何とか店内から脱出できた何人かが煤まみれになってうずくまっている姿が見えた。
「皆さん、こちらの方へ避難して下さい」
救急隊の面々もしつこく撮影などをしている野次馬達の邪魔を受けて到着が遅れてしまったものの、それを取り戻そうと手早く被害者達を保護していく。そんな中、野次馬達を遠ざけつつ、防煙マスクを着けて消火活動を始めていた俺達の耳に嫌な言葉が聞こえてきた。
「ま、まだです!まだ中に、何人も残ってて…!」
肩越しに振り返ってみたが、救急隊員達の中に紛れ込んでいて誰が言ったのかは分からない。でも、確かにそう聞こえた。おい、マジか。
「葛木大隊長!」
俺と同じ事を考えていたのか、俺と一緒に放水をしていた飯塚が葛木大隊長を見やる。葛木大隊長は燃え盛る『natural』と俺達を交互に見つめてから、ひどくゆっくりと「五分だけだ」と言った。
「それ以上は危険だ。五分経ったら、絶対に戻ってこい」
「はい、行くぞ上岡!」
俺が頷くと同時に、飯塚がホースをすぐ近くにいた別の班の消防士に押し付ける。そして新しい酸素ボンベを取りに、消防車の方へ走っていった時だった。
「美香、オーナー!」
この騒然となっている現場の中、ひときわ大きな叫び声が響く。条件反射的にそちらを振り返ってみれば、今まさに一人の青年が全くの無防備状態で、燃え盛る『natural』に向かって飛び込もうとしている姿が見えた。
素人が何やろうとしてんだ!無茶だ、死ぬぞバカ!!
頭の中でそんな事を考える間もなく、俺の身体は動いていた。『natural』の入り口ドアまであと数歩という所まで走っていた青年の後ろから飛びかかり、アスファルトに押し付けるような形でのしかかった。
「待て!何をするつもりだ!!」
「離せ、離してくれ!!」
体格差があるはずなのに、青年は必死になってもがき、俺の下から抜け出そうとしている。何て力だ、本気を出していないと抑え込み切れない。よほど大事な誰かが取り残されているのか?それでも、行かせる訳にはいかなかった。
「何考えてんだ、死ぬぞ!」
「中に…、中にまだ人がいるんだ!僕の彼女が、ここのオーナーさんが…!!」
彼がそう叫んだ、その時だった。
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