第118話
河川敷から家まで、実は少し距離があったけど、ちょうどいいリハビリだと思って懸命に松葉杖を動かした。
とりあえず、目標は一年後。高校生活最後の大会に万全の状態で出場する事だ。「ひとまず、陸上ができるくらいには回復する」じゃダメなんだ。章介と一緒に走った最初で最後のレースの時みたいに、無限のエネルギーを発揮してると思えるくらいのものでなくちゃ。
そうと決まれば、と俺の両手は、さらに力強く松葉杖を握り込む。願わくば、あと三ヵ月以内にこいつとおさらばしたいものだ。
ふう、すう、ふうとな規則的な呼吸を繰り返しながら、道を進んでいく。途中で何度かよろけてしまったが、それでも小一時間ほどをかけて住宅街に差しかかった。
ここまでくれば、家まであと何十分かだ。父さんも母さんも驚くだろうか。いや、その前に無茶するなと怒られるか?
どっちでもいいかと、俺が自嘲を浮かべた時だった。
「よう、カナ。ババアの葬式終わったのか?だったら、今から…。…は?おい、カナ!?何言ってんだ、お前。今どこに…」
前の道からやってきた何人かの男達とすれ違いざま、そんな声が聞こえた。つい反射的に見やってしまえば、そのうちの一人がスマホを耳に当てている。たぶん電話をしていたんだろうけど、そいつはすぐにスマホを顔から離してしまった。
「何だよ、切れたし。せっかく俺の方から連絡してやったのに」
「どうかしたんか、拓弥?」
たぶん、俺より少し年上なんだろうなと思ってたら、電話をしてた奴が不機嫌そうな声を出していたせいか、隣の奴が不思議そうに尋ねてくる。そしたら、その拓弥って呼ばれた奴は「それがよぉ」と口の端を持ち上げながら話しだした。
「カナ呼び出そうと思ったんだけど、バカな事言い出した挙げ句に切りやがってさ」
「その子って、確かお前のセフレだろ?お前って下半身サルだから、嫌がられてんじゃね?」
「毎回楽しませてやってるっての。でもよぉ、いくら来れねえからって、ついていい嘘くらいあるだろうが」
「何て言ってフラれたぁ?」
「それがよ、『おばあちゃんに殺されるぅ~』だってさ」
わざと甲高い声色を出してふざけるそいつに、俺は気分が悪くなった。何だこいつ、俺の一番嫌いなタイプだ。絶対に関わり合いになりたくない感じの。
さっさと通り過ぎてしまうのが吉だ。そう思って、松葉杖をまた動かそうとした時だった。
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