第116話
数時間後。夕暮れのオレンジ色が空を占め始めた頃になって、俺は上岡さんと会う事ができた。
待ち合わせ場所は、上岡さんが勤める消防署近くの河川敷だった。父さんの車で近くまで送ってもらった後、一人でそこまで行くと、もう上岡さんは先に来ていてのんびりと腰を下ろしていた。
「やあ。大丈夫か?」
上岡さんは俺に気が付くと、片手を軽く掲げて微笑んでみせる。俺は軽く会釈すると、彼のすぐ隣まで向かった。
「いろいろ、ありがとうございました」
上岡さんに手伝ってもらって、何とか横に座らせてもらえる。松葉杖を膝の上に寝かせながらそう言うと、上岡さんは「俺は何もしてない」と首を横に振った。
「ただ、杉田君が望むだろう事をさせてあげただけだ」
「どうしてですか?」
「ん?」
「どうして、章介が俺と仲直りしたがってるって分かったんですか?」
俺は、一番知りたかった事を尋ねた。
だって、そうだろう。章介と上岡さんは、あの火事で初めて顔を合わせた。そして、それからほんの一瞬後に章介はいなくなってしまったんだ。そのたった一瞬の出会いでしかなかった相手の心情を、どうしてこの人は。ずっと親友をやってた俺だって、怖くて逃げだしたっていうのに。
「言っただろ?俺は経験者だって」
俺の問いに、上岡さんは少しいたずらっぽく答えた。
「俺も似たような事があってね。だから、杉田君が遠藤君を呪うはずがないと確信が持てた。だからあの時、途中で彼を遮るのをやめたんだ」
「そんなの、分かんないじゃないですか…」
「ん?」
「万が一って事もあったかもしれないじゃないですか。俺はそっちの方に頭が回ってしまって、逃げた。なのに章介は、追いかけて来てくれて…」
「……」
「きっと、痛かっただろうなって。死んでまであんな思いをさせてしまった…。謝れはしたけど、章介が俺の事を許してくれたかどうか自信が持てないんです」
「それなら、心配はない」
「え?」
「杉田君から、伝言を預かっているんだ」
そう言ってから、上岡さんは聞かせてくれた。あの時、燃え盛る喫茶店の中に戻って行った時の事を。
そこで章介の口から聞こえてきた言葉を一言一句間違えずに言ってくれた瞬間、俺の涙腺は壊れた。
「…ああぁぁぁあ!章介ぇぇぇぇ!」
涙も鼻水も慟哭も何もかも垂れ流して、俺は大声で泣いた。ガキみたいにみっともなく、泣いて喚いて叫び続けた。
章介、章介。あんな時まで、そんな事を。
大好きだ、大好きだぞ章介。俺の一生の親友。
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