第101話
…どれだけ意識を飛ばしていたんだろう。
ものすごい煙たさが鼻をついてきた事で、俺の意識は一気に浮上した。ゆっくりとじゃあなかったのは、きっと生存本能のなせる業だったんだろう。
一番最初に見えたのは、黒煙だった。何故か俺の全身は床にうつぶせに倒れていて、目だけで上を向いているような感じになっている。その両目が、あたりを充満している真っ黒な煙を捉えていた。
あれ?どうなってんだよ?俺、さっきまで章介と一緒に『natural』にいたんだったよな?あの店は、茶色でシックな感じだったのに、何でこんな真っ黒になってんだ?
全く章介の奴、どこ行ったんだ?早く捕まえて、落ち着かせねえと…。
そう思いながら、ひとまず起き上がろうとした時だった。突然、何の前触れもなく、右足に尋常でない激痛が走った。
「…っ、うああああああっ!!」
まだ十七年ぽっちしか生きてきてないけど、こんなの今まで感じた事がないって程の激痛だった。よくサバイバルホラー系の映画とかに出てくるじゃんか。正体不明の怪物にしつこく追われた挙げ句に捕まって、身体のどこかを引きちぎられるっていうシーンが。あんな事されたら、まさしくこんな痛みを感じるんだろう。
見ない方がいいに決まってるのに、どうしてこれほどまでに痛いのかと、恐怖心より好奇心に似たようなものが勝った。何とか上半身だけを起こして、首だけで振り返ってみる。…うん、やっぱり見なきゃよかったとすぐに後悔した。
俺の右足は、ふくらはぎの所から肉がえぐれて骨がはっきりと見えていた。人体模型なら生物の授業で見た事はあったし、陸上をしているんだから足のレントゲン写真だって何度も撮った事はある。だけど、リアルに自分の目で本物の骨を見た事なんてなかった。
何がカルシウムの塊だ。何が魚を食べたら丈夫になれるだ。肉と一緒にえぐられていた骨は、もろくも一部が削られている状態だった。
人間は、二本の足で自分の身体や体重を支えているんじゃないのか?俺は今まで、この両足でグラウンドを走ってきたんじゃないのか!?
一部が削られて途中から異様に細くなっている骨は、非常に頼りなく見えた。こんなんじゃ、ちょっと動いただけで一気に崩れて消え去るんじゃないかという不安が押し寄せてきて、それは俺に黒煙以外の周囲の状況をさらに把握させてくれるきっかけとなった。
空気が熱かった。煙たいだけじゃない、ごうごうと唸るような熱い熱気が周りを取り囲んでいる。続いて黒煙のあちこちから漏れて見えたのは、真っ赤な炎の嵐だった。
え?燃え、てる…?『natural』が、燃えてる!?何で!?
俺がようやくそう認識できたのと、どこか近くから誰かの声が聞こえてきたのは同時だった。
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