第83話
†
それから後は、もう本当に大変だった。
おばあちゃんがいなくなってから三十分後に両親が帰ってきたんだけど、廊下を見るなり夜中にもかかわらず、とんでもない大声で叫んだ。
告別式もうちでやる事になってるから、お母さんは一階の目に映る所は隅々まできっちりと掃除してた。特に廊下なんて人の行き来が多いもんだから、よりていねいにしていたはず。
なのに、自分達が出かけていたたった一時間ちょっとの間に、煤にまみれた真っ黒な足跡が廊下の至る所で無数に残っていたら、そりゃあ叫びだしたくなるってもんよね…。
「…な、何なのよこれは!?カナ、ちゃんと説明してちょうだい!」
ひとまず怒りでぶるぶると震える人差し指を廊下に向けながら、お母さんが喚く。あたしは正直に答えた。
「…おばあちゃんが帰ってきてた」
「はぁ!?」
「だから、ついさっきまでおばあちゃんが帰ってきてたの。ねっ、おじいちゃん?」
あたしは、後ろにいるおじいちゃんを振り返った。おじいちゃんはとても幸せそうに笑いながら、コクコクと頷く。
「ああ。きちんとお別れができてよかった。これでまた来世でもきみえと結婚できるぞ」
「よかったね、おじいちゃん。その時はあたしもまた、二人の孫にさせてよ」
「ああ、もちろんだとも」
あたし達のこんな会話を、両親は訳が分からないといった表情で見つめていた。
まあ、あんな出来事を信じろって言う方が無茶な話だし、一度はおじいちゃんに会うのを拒んでいたおばあちゃんの事だ。これ以上詳しく話してもらいたくないかもしれない。
だから、あの出来事は、あたしとおじいちゃんだけの秘密。二人だけの、大事な秘密にしようと思った。
そうやってきちんとした説明をしなかったあたしは、両親に呆れられつつもしっかりと怒られ、廊下の掃除を手伝わされる事になった。しかも徹夜で。
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