第79話
「お・ばあ・ちゃ・ん・ご・め・ん・ね」
あたしは、おばあちゃんの手のひらに何度もそう綴った。
あの日、おばあちゃんの言う事を聞かなくてごめん。学校サボってごめん。生意気な事言ってごめん。行ってきますも言わずに、無視してごめん。振り返りもせずに、出かけちゃって…。
「本当にっ…、ほんと、に…ごめっ、な…さぃ…!」
いつの間にか涙がボロボロ出てきて、言葉も指もうまく綴れなくなった。
本当に、本当に後悔してる。あの日、あの時がおばあちゃんとの最後になるって分かってたなら。
何も変わらないって思ってた。
あたしの周りにいる誰も彼もは、今日も明日も明後日もその先もずっと、何も変わらずそこにいると思い込んでいた。平穏な日々の中にずっといられるんだと、自分を特別扱いしてた。そんな訳ないのに。
人生、何が起こるか本当に分からない。何気ない日常の中、突然、全く想像した事もない事態に巻き込まれる事だってあるんだ。今がまさにそれ。
なのに、おばあちゃんは何一つ変わらなかった。
そりゃあ、見た目はこんなふうになってしまったけど、中身は何一つ変わっていなかった。生きてた頃と変わらず、ただひたすらおじいちゃんが大好きで、そして…。
『ご』『め』『ん』『ね』
ほら、こんなふうに。おばあちゃんは何一つ悪くないのに、こうしてあたしに謝ってくる。ただ、心配してくれてるだけなのに。
『こ』『わ』『が』『ら』『せ』『て』『ご』『め』『ん』『ね』
ううん、違う。もう大丈夫だから、もう怖くない。おばあちゃんだから、あたしのおばあちゃんなんだから。
そう言いたいし、そう綴ってあげたいのに、涙が邪魔するせいで、あたしは首を横に振る事しかできない。それなのに、おばあちゃんはあたしの手を離すと、ゆっくりと後ずさり始めた。
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