第78話
『お』『じ』『い』『ち』『や』『ん』『ど』『こ』
最初はくすぐったさの正体が分からなかったけど、閉じていたまぶたをそうっと開いて視界の真ん中に見えたものを読んだ。
今にも崩れるか、折れてバラバラになってしまいそうなほど炭化してしまった黒い手。その指があたしの手のひらで、指文字を綴っていた。
手話よりも簡単で、日本語のひらがな四十八文字を様々な指の形で表現したもの。おばあちゃんが、何よりも先に教えてくれたものだった。
だから、指の形を目で見なくたって、手のひらの上で綴ってくれるだけで分かるよ。おばあちゃん…。
『お』『じ』『い』『ち』『や』『ん』『ぶ』『じ』
おじいちゃんはどこ?おじいちゃんは無事?
何にもなくなった顔をこてんと横にかしげる。指文字とたったそれだけの仕草で、あたしは全部分かってしまった。
おばあちゃんは、ただ心配なだけだったんだ。あの日、あっという間にガス爆発に巻き込まれてしまったから、おじいちゃんの事を何も確認する事ができなかった。
だから、だから…!
もう、さっきまでの恐怖は跡形もなく消え去っていた。
あたしはおばあちゃんの真っ黒な右手首を掴んだ。あたしの手も炭で真っ黒になったが、それがどうした。
「大丈夫」
あたしはおばあちゃんの真似をするように、そのボロボロな手のひらに指文字を綴った。
「お・じい・ちゃ・ん・は・だ・い・じょう・ぶ!け・が・も・た・い・し・た・こ・と・な・い」
だから安心してと最後にそう綴るつもりだったんだけど、やめた。
ヴォォオオオ~…。
おばあちゃんの口から、またあの音が聞こえる。
何も怖くなかった。おばあちゃんの安心したため息だって事がすぐに分かったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます