第77話
そう思った瞬間、あたしの身体は完全に脱力して、震える事すらできなくなった。
あまりにも大きな自分の間抜けぶりに、苦笑いさえ出てこない。何でこんな事に気付かなかったんだろう。
あたしがどんなに謝ったって、あたしがどんなに怖がって泣き叫んだって、おばあちゃんには聞こえない。聞こえてないし、理解されない。手話じゃなきゃ、伝わらない。
でも、力が抜けきった今の状態じゃ、あたしの手はいつもみたいに手話の形を綴ってくれない。ペタリと床に貼り付いて、少しも動かない…。
おばあちゃんの面影が全く残っていない『アレ』の顔が、あたしを真正面から捉えたのを見て、あたしは何となくだったけど覚悟を決めた。ああ、今からあたし、死ぬんだなぁって…。
だって、ホラー映画とかだと、今の状況はまさにテンプレ。もうどうにもならない、絶対的に死亡フラグが立ってる。
その次に考えたのは、どんな死に方になるんだろうってのんきな事。やっぱ、『アレ』みたいに真っ黒焦げな死体になるのかな。それか、あまりの恐怖におののいた表情で心臓マヒ?それとも…。
そんな事を考えてたら、涙が一粒ポロリとこぼれた。
「…死にたくない」
口が勝手に、情けない言葉を放った。
「死にたくないよぉ…。何でよりによって、おばあちゃんなのぉ…?おばあちゃんに殺されるなんて、ヤだよぉ…」
おばあちゃんは、心の優しい人だった。
耳が聞こえないって事以外は、どこにでもいるごく普通のおばあちゃん。誰とでもすぐ仲良くなれて、週に一度のおじいちゃんとのデートを何よりの楽しみにしているかわいいおばあちゃん。
そんなおばあちゃんがこんな姿になったってだけでも悲しいのに、あたしを殺したりなんかしたら正真正銘の化け物になっちゃうような気がして、それが心の底から嫌だった。
「おばあ、ちゃ…」
あたしは目の前にいる『アレ』――じゃなくて、おばあちゃんに話しかけようとした。でも、それと同時に黒焦げの手が勢いよく伸びてきて、あたしの右手首をがっちりと掴む。そして、力任せにぐいっと引っ張った。
「ひっ!?」
つい、短い悲鳴をあげる。右腕を引きちぎられると思った。
けど、そうじゃなかった。まだ数日しか経っていないのに、懐かしい感触があたしの手のひらをくすぐったんだ。
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