第56話

今でこそありきたりな告白の言葉だけど、おばあちゃんがあたしと同い年の頃、それはプロポーズと同じ意味だったらしい。


 まだまだ親の決めたお見合いで結婚する事が当然みたいだった時代、結婚前で、しかも十代での恋愛は異端視扱いだった。


 汚らわしいとか嘆かわしいとか、はしたないとかいやらしいとか。


 とにかく、とことんこけ落とされ、ずっとそういう目で見られるのだとおばあちゃんは教えてくれたが、あたしにはあまりよく分からなかった。


 恋愛くらい、別にいいじゃんと思ったからかもしれない。そんな堅っ苦しい時代に生まれてこなくてよかったとも思ったからかもしれない。


 実際、あたしが拓弥と付き合い出した時も、そんな堅っ苦しいものは何一つなかった。


 今みたいにLINEで大した事のない話をしていたら、急に拓弥の返事が色めき立ってきて、最後のこのメッセージで決めたようなもんだったから。


『なあ、俺らもう付き合わね?』


 言葉自体は少し崩れているけど、おじいちゃんのそれと同じようなもんだよねと、あたしは笑いながら手話をする。けど、おばあちゃんは納得しなかった。


『いいえ。おじいちゃんはとても真剣だった』


 緊張で少し赤くなった顔をうつむかせながら、おじいちゃんは手話を使った。とてもたどたどしく、ゆっくりとしたペースで「俺と、付き合って下さい」と言ったそうだ。


『身体の不自由な人間と結婚したら、どれだけの苦労をするか分かってるでしょうに。でも、すごく嬉しかったのよ?』

「……」

『だからカナちゃんも、そうしてくれる彼氏を見つけなさいね?』

「は?何それ?」


 何だか拓弥の事をバカにされたような感じがして、あたしは思いきり顔をしかめる。でもおばあちゃんは気付かずノロケ話を聞かせ続けた。

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