第54話
「怪我をされた方々からそれぞれ話を聞き、統合しましたところ、事故の瞬間、お二人はキッチンの脇に備え付けられていたトイレに向かっていました。そして、正之助さんが先にトイレに入ったそうです」
あ、それ分かる。想像できるわ。
おじいちゃんはこの数年で、いきなり下半身が役に立たなくなった。
老衰のせいか何かの病気なのかは分からないけど、あっという間に両足が細くなって骨と皮だけになった。当然一人だけでうまく歩く事なんかできなくなって、最低でも杖が必要だし、誰かの補助がないと危なっかしかった。
きっとその時も、おじいちゃんの方がトイレに行きたがったんだ。それでおばあちゃんが付き添った。
男女共有となっているトイレは洋式タイプだったそうで、おじいちゃんにはひどくありがたかったはず。おじいちゃんを便器に座らせ、ズボンのベルトを少し外してあげて。
それから――。
『では、すみましたらドアを叩いて教えて下さいね。私、ここで待ってますから』
きっと、そんな感じの事を手話で言って、トイレのドアを閉めようとするおばあちゃん。それに笑顔で応えるおじいちゃん。その瞬間――。
「正之助さんはトイレの中にいた為、頭を打ち付けたぐらいで何とか助かったようですが、きみえさんは爆発の際の熱風や衝撃をもろに…。とりわけお顔の損傷がひどかったので、ほぼ即死ではないかと」
そこまで言うと、刑事さん達はほぼ同時に静かに長く息を吐いた。
ここまで聞いた話は、あくまで他の生き残った人達の話を統合した結果の想像でしかないんだ。本当はもっと違うかもしれない。テレビドラマみたいに、瞬時に危険を察知したおばあちゃんがカッコよくおじいちゃんを助けたのかもしれない。
そう思ったあたしは、何度もそんなおばあちゃんを想像しようとしたけれど…、無理だった。
そんな都合のいい展開なんてありえないし、刑事さん達の想像の方がよっぽどリアルだ。
それに、たとえどんなに都合のいい想像をしたところで、おばあちゃんが死んだ。いなくなってしまったという結末は決して変える事なんてできない。どうあっても、おばあちゃんは死んだのだ。
「お、お義母さん…!」
せっかく少し落ち着いていたのに、お母さんがまた泣き出した。
お母さんとおばあちゃんはすごく仲が良かった。世間でよく聞く嫁姑問題とか全然なくて、戸籍だけで繋がってるんじゃないって思えるくらいの仲良しぶりだった。
お母さんは、おばあちゃんに会えたんだろうか。
あと、おじいちゃん。おじいちゃんはおばあちゃんが死んだ事、分かってるんだろうか…?
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