第53話
†
一時間後。あたしと両親は、今回の事故の担当になったという刑事さん二人に連れられ、警察署の二階にある一室に入った。
結局、あたしはおばあちゃんに会う事はできなかった。刑事さんに呼ばれて、お父さんが霊安室から出てきた時、ドアの隙間から見えただけ。
簡素でお粗末な造りな上、名前も彫られていない位牌を挟むように白いろうそくが二本並べられている前で、おばあちゃんは横たわっていた。よほどひどい状態なのか、大きな白いシーツをすっぽりと被らされていたっけ…。
「この度は心よりご悔やみ申し上げます。これより、今回の事故の経緯についてご説明させていただきます」
あたし達が備え付けられた長机の前の椅子に腰かけたのを確認すると、刑事のうちの一人が十数枚もの紙切れを手に淡々と語り出した。
事故が起きたのは、今日の昼過ぎ。場所はあの喫茶店。原因はまだ調査中だが、おそらくは喫茶店で使っていたガスボンベが爆発したんじゃないかと言っていた。
そして。
「
…はぁ?
あたしの口から、そんな音が思わず漏れた。
今、この人、何て言った?聞き間違いじゃないよね?確か、最後から二番目とか言わなかった?
何それ、どういう事?おじいちゃんもおばあちゃんも、余裕で八十歳過ぎてんだけど?普通、こういうのって年寄りを最優先にして助けるもんじゃないの?あの消防士、何やってたんだよ…!
ふつふつとガマンが抑えきれなくなっていって、大声で文句を言ってやろうかと思ったけど、あたしより一瞬早くお父さんが先に行動を起こした。
「…ちょっと待ってくれ。何で両親の救出がそんなに遅れたんだ!?」
バァン!
机の上に両手の手のひらを叩きつけるように叩いてから、お父さんが乱暴に立ち上がる。勢いで椅子がひっくり返ったけど、誰もそれを起こそうとはしなかった。
「母は耳に障害を持っていた。父も腰を痛めて、杖がなければ満足に歩く事もできなかったんだ。そんな二人を、どうしてもっと早く…!」
お父さんがあんまり早口でまくし立てるから、そのまま刑事さん達に殴りかかっていくんじゃないかと思ったけど、やっぱりこういう事に慣れっこなのか、刑事さん達は冷静というかわりと普通だった。
「事故発生の瞬間、お二人が入り口から一番遠いトイレの前にいたからです」
もう一人の刑事が、書類から目を離す事なく答えた。
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