第48話
「…あうっ!」
まただ。また、あのまぬけな呻き声を出した。
バックの体勢で絶頂を迎えた拓弥が、満足げな息遣いと共にあたしの背中に寄りかかってくるのがひどく鼻につく。あたしは枕に突っ伏していた顔を持ちあげて、肩越しに拓弥をにらんだ。
「もう何回連続でやってると思ってんの?」
「…いいじゃん。だって、カナの中サイコー」
こっちは思いきり不機嫌全開で言ってるのに、拓弥は全く気付く事なく夢心地な口調で返してくる。あんたはサイコーかもしれないけど、あたしは最悪だ。
「そろそろどいてよ、シャワー浴びたい」
「まだ、早いだろ」
そう言って、拓弥は素早く両腕を動かして、あたしを仰向けにひっくり返す。そして、鎖骨の所に顔を近付けて、ぢゅうっと強く吸ってきた。
「夕方まで半額なんだぜ?もっとヤらなきゃ、損じゃね?」
「もうお昼とっくに過ぎてるんだけど?あたし、おなかすいた」
「俺の事、たっぷり食ってるくせに」
ここでさ、と拓弥の右手があたしの太ももの付け根よりさらに奥を触ろうとする。だから、そういう事を聞かせてあたしが喜んでるとか思わないでほしい。むしろ引く、ドン引きするから。
「安心しろよ。もっと気持ちよくしてやるから」
そう言って、拓弥はまた臨戦態勢に入った。こうなると、もうこいつにあたしの拒絶は届かない。こいつの耳に入るのは、あたしの喘ぎ声だけ。
さほど上達したとも思えない拓弥の愛撫を受けながら、ふと思った。拓弥とはどこで知り合ったんだっけと。
少なくとも、おじいちゃんとおばあちゃんの時みたいな運命っぽい出会いではなかったのは確かだ。あまりにもありきたりで、何のドラマにもならないくらいの…。
それでも出会ったその時は、それと両思いだって知った時は運命みたいなものを感じてた。こいつとなら、どんな事も乗り越えて一緒にやっていけるとか柄にもない事を思ってみたりもした。
なのに今は、それも遠い日々になりかけてる。まぬけな呻き声も、しつこい愛撫も、今まさにあたしの中に入ってこようとする腰つきも、何か気持ち悪いと思い始めてる。
そして、心ではそう思ってるのに、結局気持ちよさに負けて跳ねのけられないあたし自身が、一番気持ち悪い。あたしが一番まぬけなような気がしてたまらない。
上を見上げてみると、短い呼吸を繰り返しながら、拓弥が必死で身体を動かしているのが見えて、あたしはそれに合わせて声を出してやる。
そのせいで、さっきからずっとスマホが鳴りっぱなしだったのに、気付く事ができなかった。
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