第45話
おばあちゃんがおじいちゃんと出会ったのは、ちょうどあたしと同い年の時だったそうだ。
施設で中学卒業まで過ごしたおばあちゃんは、進学はせずに集団就職の波に乗っかった。一時は高校へ行く事も考えたそうだけど、当時、身体的な障害を持つ人を快く迎え入れてくれる学校なんて少なかった。
また両親に苦労をかけさせてしまうくらいならと、おばあちゃんは隣の県にある織物工場に何人かと就職した。小さいが寮もあって衣食住に困らないのが魅力的だったそうだ。
長年に渡る施設での訓練が実を結び、おばあちゃんはずいぶんと手先が器用な女の子になっていた。初めて扱う機械でも二~三度やり方を見せてもらえれば、それだけでまるで手足のように使いこなす事ができたという。
だけど、やっぱりネックになっていたのは、仲間や上司とのコミュニケーション。
まだまだ手話が一般的じゃなかった時代、おばあちゃんはなかなか周囲と意思の疎通ができなかった。会話をする為にメモ帳と鉛筆が必需品だったし、しかも自分だけじゃなくて相手にも書いてもらわないといけない。
仕事で何か伝達や聞きたい事があるたびにおばあちゃんがメモ帳を取り出す事を、周囲はやがて面倒くさがるようになった。表立って嫌がらせをするまではいかないものの、何を聞いてもおざなりな返事を書きこむようになったという。
挙げ句の果てには、
『それなら別の人に頼むから、何もしないでいいよ』
誰もおばあちゃんと仕事をしたがらなくなった。面倒くさいからって、ただそれだけの理由で。
『耳が聞こえなくても、口がきけなくても、そういう感じってものは伝わるんだよ。肌で感じ取っちゃうから、決して知らない訳じゃないんだよ』
そんな居心地の悪さを感じながらも、おばあちゃんは工場を辞める事なく働き続けた。両親の為に、何より自分の将来の為にとがむしゃらに頑張っていた。
そんな日々を送っていたおばあちゃんの前に、おじいちゃんが現れた。毎週木曜日、工場に完成した製品を取りに来るトラックの運転手がおじいちゃんだった。
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