第34話
親父さんの格好とその箱を見て、僕は「ああ、そうか」と理解した。
あれから一日以上が経ってるんだ。美香が荼毘に付されるのは、至極当然の事じゃないか。
僕は、美香だった肉体を火葬場で見送れなかった事に複雑な思いを抱いた。
できる事なら、煙となって天に昇っていく美香の肉体を見送り、その骨を拾ってやりたかった。しかしその反面、例え一瞬とはいえ、あんなに痛くて熱い目に遭った美香が、また火にいたぶられるような様を目の当たりにする事にならずに済んでよかったとも思った。
僕は、とんだ小心者だ。親父さんは、そのどちらもしっかりと受け止めて見届けたというのに。順番が逆になったとはいえ、きちんと最後まで務めを果たしたというのに。
僕は親友が止めるのもかまわず、ベッドの上でゆっくりと上半身を起こす。そして、扉の所で立ち尽くしたままの親父さんに向かって深く頭を下げた。
「…心より、お悔やみを申し上げます。美香さんには本当にたくさんの思い出を頂きました。僕はその思い出を糧に、これからを」
「おい、何を勝手に終わろうとしている。さっきの俺の言葉を聞いてなかったのか?」
だが、親父さんは僕の言葉をぴしゃりと遮ると、つかつかとした足取りでベッドの側までやってきた。
両手が箱で塞がっていたから、肩で押しのけるように親友をどかすと、親父さんは僕の顔をじいっと見つめた。
「それに昨日、貴様は俺と上岡さんにも会った。その事も忘れたのか?」
「え…」
「俺だって、いまだに信じられん。でも、そうだと思えば納得がいかない事もない。美香は貴様の所に行っていたのだと…」
「どういう、事ですか…?」
酸素マスク越しの僕の声は、情けなく震えている。親父さんの次の言葉に、何だか妙な期待を抱いているような感覚だ。
そして、僕のその感覚に応えてくれるかのように、親父さんが次の言葉を発した。
「美香が帰ってきたんだ、お前の所から…」
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