第25話

「ねえ、どういう事なの…?あれだって、ドッキリか何かだよね…?」


 あれが何を指しているかなんて、すぐに分かった。


 夕方の情報番組を流すテレビの液晶画面では、全焼した『natural』の映像が映り込んでいる。オーナーが自慢げにしていたオリジナリティ溢れるデザインの看板も、無残に黒焦げだ。


 ほぼ即死だった美香が、『natural』のあの姿を知らないのも無理はない。ただ、できる事なら、知らないままでいてほしかった。


「大丈夫だよ、美香」


 僕はテレビに近付くと、コンセントを乱暴に引き抜く事でその電源を落とした。ブツンと鈍く響いた音に驚いたのか、美香の身体が震えた。


「何が…?何が大丈夫なの?だって、お店があんな…」

「大丈夫、何でもないから」


 不安げにどんどん言葉を重ねてくる美香。そんな彼女に、僕は同じ数だけ「大丈夫」と答えた。


「オーナーも奥さんも。それから他のお客さんも大丈夫。だから、美香が何も気にする事ないよ」

「何言ってるのよ、たもちゃん。あんな真っ黒焦げでボロボロなのに…。いったい何が」

「心配性だな、美香は。本当に大丈夫だって」


 僕は今度は美香にゆっくりと近付いた。彼女のすぐ側まで寄れば、その両目がやたらと不安で揺れているのが分かって、ちょっと急ごうかという気持ちにさせられる。


 美香の左手の中でぶら下がっている、買ったばかりの白いロープ。僕はそれに手を伸ばした。


「それ、貸して」


 だが、僕の指がロープに触れようかという時に、ふいに美香の左手がロープごと僕を避けた。え、と思う間もなく、そのまま美香は背中の向こうに左腕を回してロープを隠すと、僕から二歩三歩と距離を取った。


「たもちゃん、きちんと答えてよ」


 今度はうつむき加減なんかじゃない。僕の方をしっかりと見据えながら、美香は問いかけた。


「これ、いったい何に使うつもりなの…!?」

「首を吊ろうと思って」


 あまりにも美香が真剣に聞いてくるから、正直に答える事にした。その方が美香も喜んでくれると思ったし。


 それなのに、僕のその言葉に何も言えなくなった美香が代わりに発したのは、驚愕と非難が入り混じった呼吸の音だった。

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