第11話
†
すっかり変わり果てた姿の美香と対面してからほんの半日足らずの間に、様々な情報が僕の元へ否が応でも届いた。
まず、あの爆発事故で亡くなったのは、美香を含めて四人である事。オーナーもそのうちの一人であり、後は十数人の重軽傷者を出した事。
事故の原因となったのは、『natural』の敷地内に置かれていたガスボンベの不備。古いボンベを交換する事なく使っていた為に、その一か所からガスが漏れ出し、キッチンの火の気に触れて爆発したのだろうというのが専門家の見解だった。
実際、複数の負傷者から、爆発の直前、どことなくガスの臭いがしていたという証言もあり、爆発事故の責任の所在は定期検査を怠っていたガスボンベの製造会社、そして爆発をまともに浴びて満足な遺体すら残らなかったオーナーへと注がれていった。
あれから、僕はオーナーの奥さんと会っていない。警察での事情聴取や『natural』跡地の始末、そしてたくさんの被害者への対応などで混乱を極めていた事もあったが、僕まで奥さんに何かしらひどい事を言ってしまいそうな気がしたからだ。
マスコミは、製造会社に対してはもちろんの事、ガスボンベの不備を見抜けなかったオーナーの事もひどく叩いた。結果、事故の一瞬前までただの一般人だった被害者やその家族達は、まずは製造会社よりいくぶん責めやすい奥さん一人に非難の声を向けた。
「どうしてガスボンベをもっと早く交換するよう手配できなかったんだ」
「店の経営者なら、定期的にチェックするのは当たり前だったはず」
「いい加減な経営手腕だったから、あんなありえない事故が起きたんだ。賠償金を一刻も早く払え!」
オーナーがいない今、奥さんはこれらの厳しい言葉と一人で気丈に戦っている。そんな奥さんに対し、僕までひどい事を言ってはいけない。そんな資格は、ない。
少なくとも、美香の死の責任はオーナーや奥さんには微塵もない。悪いのは僕だ。
あの日、確かに僕は『natural』を待ち合わせ場所に指定していたが、深酒をせずに時間通りに来ていたら、すぐに店を出て、どこかムードのある場所まで美香と一緒に移動するつもりだった。
『natural』でプロポーズするという事も考えたが、顔見知りの多い店内ではもしかしたら美香が照れて困ってしまうかもしれないし、二人だけの思い出を作りたかった。だから、もしも時間通りに来ていれば、少なくとも美香だけは…。
美香の死の原因は、まぎれもなく僕にある。だからこそ、親父さんは僕を思いきり殴ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます