第7話
僕のスマホのLINE画面には、美香からのメッセージが何件も入っていた。
『naturalに着いたよ。ちょっと早く来すぎちゃった』既読
『待ち合わせまで、まだ一時間もあるけど』既読
『オーナーや奥さんとお話してるから、たもちゃんゆっくり来ていいよ』既読
『て、いうか、大事な話って何かな?』既読
『期待して待ってていい?』既読
『なんちゃって(笑)』既読
最後には、お茶目な顔をしたアニメキャラのスタンプが押されていた。前に、美香が一番推してるんだと話していた事があったっけ。
付き合ってみれば、美香は結構おしゃべりな女の子だった。
仕事をしている時は余計な話はほとんどしないのに、プライベートに切り替わったとたん、堰を切ったかのようにマシンガントークを繰り広げてくるし、それがアニメの話題になるとより如実だ。LINEのメッセージもわざわざ小分けに送ってくる。
だから遅刻してしまったと焦ってはいたものの、そんなに退屈はしていないだろうと思っていた。
『natural』オーナーの川井さん夫妻はとても気がよくて、木漏れ日のような温かい印象がある。まさに接客業をする為に生まれてきたような二人と一緒なのだから、僕が慌てて『natural』に飛び込んだとしても、美香はさほど怒りもせず、いつものようなかわいらしい笑顔で「たもちゃん」と出迎えてくれるだろう。
そう思っていたのに、どうして『natural』が燃えているんだ…!
僕はとにかく美香や川井さん夫妻を捜そうと、規制が張られ始めた『natural』の周りを小走りで駆けだした。
きっと、三人は無事だ。他の客と一緒に、きっと無傷でその辺にいるはずだ。
そう自分に言い聞かせながら、十メートルほど走った時。店から少し離れたアスファルト道路に何台もの救急車が停まっているのが見えた。その一台のすぐ側にいるのは、大きな毛布にくるまってしゃがみこんでいる奥さん…。
「奥さん!」
僕はすぐさま駆け寄った。奥さんは生気のないぼうっとした表情をしていたが、僕の声に気付いたのか、ぱっと顔を上げて「木嶋さん…」とこちらを見やった。
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