第4話

小一時間ほどかけて、カップ酒の中身を十個以上は消費した。それなのに、さほど酔いは回ってこない。頬のあたりが少し熱くなったくらいだ。


 驚くほど、頭は正常に回っている。あの日みたいに、ふわふわしてない。こんなに酒臭くなるまで飲んでるっていうのに、あの日の事をひどく冷静に思い出せる。


 そうやって思い出していくうちに、僕は後悔に苛まれていった。あの日、あんなに浮かれて酒を飲み過ぎたりしなければと。






 あの事故の前日、僕は偶然最寄り駅で一人の男と再会した。


 その男は、小学校時代の同級生だった。僕とは全くタイプが違っていたのに、妙にウマが合って、小学四年の時に彼が転校していくまで、いつも一緒に遊んでいた。


 実に十五年ぶりの再会だった。出張で来ていたらしく、僕と同じくスーツ姿だったかつての親友に、僕はすぐに気付く事ができなかった。


「…たもちゃんだよな?市川小学校の木嶋保きじまたもつだろ!?」


 今や美香だけしか呼ばなくなった僕の呼び名。それを堂々と大声で言ってきた親友は、ずいぶんと恰幅がよくなっていて、とても同い年には見えなかった。


 だから名刺を見せられるまでは警戒してしまったのだが、正体が分かったとたん、僕の心はあっという間に小学生時代にまで遡って、お互いに「久しぶりだなぁ!」「懐かしいなあ、元気だったか?」なんて言い合って、あっという間に飲みに行こうという話になった。


 すぐに近場の居酒屋へとしゃれ込み、半個室の部屋へと通された。とりあえず生ビールを注文し、ジョッキで来たそれらをカチンと併せて「十五年ぶりの友情に乾杯!」なんて言って。


 その際、ジョッキを持っていた彼の左手の薬指に光るものを見つけたので聞いてみれば、去年結婚したんだという話を聞かされた。


「取引先の受付の女の子だったんだけど、ダメもとでデートに誘ったのがきっかけだった。それで半年経って、子供ができてさ…」


 あまり強くはないのか、それとも照れる気持ちの方が強いのか、彼の顔はもう赤くなっていた。


「たもちゃん、結婚はいいぞ!」


 早々とジョッキ一杯飲み干した彼は、僕の両肩に手を置いて力説を開始した。

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