第3話
葬祭場からだいぶ離れたコンビニで、カップ酒をこれでもかと買い込んだ。
買い物カゴいっぱいに敷き詰めたカップ酒を覗き込んだコンビニ店員は美香より少し年下くらいの若い女の子だったが、ほんの一瞬だけしかめ面をした後、マニュアル通りのレジ業務に入る。
きっと、アル中の類か何かだと思われたに違いない。抑揚のない声で「四千七百五十三円です」と言ってきたその子は、きっと後でもう一人の店員とこんな話で盛り上がるのだろう。
『ねえ、さっきのお兄さん見た?一人であんなにお酒買い込んじゃってさ』
『彼女にフラれて、今からヤケ酒でもするんじゃないの~?どっちみちダメ人間だよ~』
そんなふうだったら、どんなにマシだったろうか。
僕はずっしりと重みのある大きめのビニール袋を右手に持って、コンビニを出る。そのまま堤防沿いにある河川敷を目指して歩いた。
左手に何も持たないのは、もうすっかり習慣となってしまった。何故なら、美香が嫌がるからだ。僕の左手は、もう何年も前から彼女専用だった。
河川敷に差しかかるまで、僕は何も持っていない左手の軽さに慣れようとした。いつでもこの左手には、美香の温かい右手があったというのに。小さくて細くて、ちょっと力を入れたら壊れそうなほどで、だからこそ守りたい、僕が守らなければならないと固く誓っていたはずなのに。
昼間は何人かの人がジョギングや散歩のコースにしている河川敷も、夜の八時を回っていればさすがに
僕は適当な場所を見繕って、どかりと腰を下ろした。腰の周りは雑草だらけだったが、全く気にしないで座り込んだので、レンタルしてきた喪服のズボンはすっかり汚れているだろう。
だが別に、そんな事はどうでもよかった。何なら、今から上着も酒まみれにしてやる。
そう思いながら、僕はビニール袋からカップ酒を一つ取り出して、ふたを開けた。そして思い切り振り上げて中身を飲み始めた。
カップの中の酒は少しばかり僕の口から逃げて、あごを伝って上着に染み込んでいく。僕はその調子で何本も一気に煽っていった。
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