第77話
「えっと、志穂ちゃん。十歳のお誕生日、おめでとう」
「え……勇気君、知ってたの!?」
反射的に花束を受け取っていた志穂ちゃんが、さらにびっくりしたような声を張り上げる。それに緊張が増した勇気が一瞬こっちをちらりと見てきたけど、俺は小さく頷く事で促す。大丈夫だ。昨夜までずっと練習してたろ、きちんと言えれば大丈夫だ。
そんなアイコンタクトが通じたのか、勇気は「うん」と答えた。
「今日がお誕生日だったから、僕をバーベキューに誘ってくれたんでしょ? でも、どうせならもっと自然がいっぱいのところでやりたくて。だから、あのハゲジジ……じゃなくて、日和様にお願いして、志穂ちゃんを呼んでもらったんだ。今の爆発マジックも一生懸命練習したんだよ?」
「そうだったんだ。ちょっとびっくりしたけど、おもしろかった。お花もすっごくきれい、本当にありがとう♪」
嘘偽りのない満面の笑みでそう言うと、志穂ちゃんは心地よさそうに花束のいい匂いを嗅ぐ。そんな志穂ちゃんに、もう一度「おめでとう」と言う勇気が何だか微笑ましい。甘酸っぱい雰囲気の中、これ以上はただのお邪魔虫にしかならないから、俺は足音を立てないようにそうっと部屋から出たのだが。
「おお、我がひ孫勇気よでかした! 後はこのまま、その娘と番に……!」
「十歳の淡い初恋に下世話な応援をするな! つーか声がでけえし、姿見せんなって昨夜さんざん言っただろうが!!」
四本の足も額の角も全く隠そうとしない牛鬼がドアの外で喚こうとしていたから、即座に廊下の奥の奥へと押しやる。そんな俺の様子を日和と志穂ちゃんのご両親が苦笑しながら見ていたが、牛鬼の姿を見ても驚かないし、やっぱりこの人達……。
「さすがはアマビエの子孫じゃな。勇気の活性化した体を瞬く間に癒すとはのう……」
そう言いながら、日和からぬらりひょんの姿に戻ったジジイを見て、志穂ちゃんのご両親が「申し訳ございません、ぬらりひょん様」と深々と頭を下げた。
「我ら甘木家一同、綾ヶ瀬家に頼らずにこれまで開業医を家業として生きてきましたが、あの子は……志穂は先祖返りと言わんばかりに異能力が強い子でして」
「触れただけで植物の成長を促進させたり、人様の怪我や病気を治してしまうので、ずっと引っ越しと転校を繰り返しておりましたの」
「しかも、その事にあの娘は全く気付いておらぬとはのう」
うんうんとジジイが頷くのを見ながら、俺は昨夜見た古文書の内容を思い出した。
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