第76話

駅を出てすぐの所に見える新築の一軒家は、俺の住んでるアパートがゴミ屋敷に見えるくらいにキレイで小洒落たデザイナーハウスに仕上がっていた。平さん、急いで家を建ててくれってムチャぶりしたのは悪かったけど、こんな田舎の村でデザイナーハウスはやり過ぎだろ……!


 でも、やっぱり無垢な性格らしい志穂ちゃんはそんな違和感には全く気付かないらしく、「ここが日和の実家なの?」なんて聞いてくる。俺はぎこちない笑みを浮かべたまま、「はい」と答えた。


「日和……さんのイメージもありますし、今回はあなただけのシークレット企画なんでぜひともご内密にお願いしますぅ……」

「はい、分かりました。それで勇気君は?」

「玄関を抜けて、すぐ見えるドア。そこの部屋で寝てます。布団の上から思いっきりダイブして起こしてあげてもらえますか?」

「はぁい♪」


 俺がデザイナーハウスの玄関を開けると、志穂ちゃんはイタズラ心を全く隠そうとしないワクワクとした表情を見せる。何かちょっとだましてるような気もするが、第二関門クリアという事で、俺は志穂ちゃんの背中を軽く押しながら「よろしく」と送り出した。


 お邪魔します、と礼儀正しく明るい声で中に入っていった志穂ちゃんは、何のためらいもなく俺が指示した部屋のドアを開ける。そして間髪入れずに、目の前でこんもりと膨らんでいる布団に向かって全身を投げ出すようにダイブした。


「ゆ~う~き~くん! おっはよう!!」


 その瞬間だった。


 ボッフン!!


 布団の中で何かがはじけるような小さな爆発音のような者が聞こえて、上に覆い被さっていた志穂ちゃんの体が一瞬浮かんだ。さすがにそれには驚いたのか、志穂ちゃんはきゃあっと小さな悲鳴をあげてころんと布団の上から転げ落ちる。やべえ、準備した護符の数を間違えたかと少し焦ってたら。


「……へへ、逆のまた逆サプライズ大成功~!!」


 こんもりと膨れ上がってた上、爆発までした布団の中から、すっかり人間の姿に戻っている勇気が大きな花束を抱えて出てきた。背中にあった節だらけの四本の足も、生えかけていた角もすっかり消えてなくなってる。よかった、うまくいった。護符がうまく働いてくれた。


 何の事か全く分かっていない志穂ちゃんは尻もちを付いたまま、きょとんと勇気を見上げている。一方、勇気はものすごく恥ずかしそうに唇をもにょにょと動かしながら、持っていた花束を志穂ちゃんに差し出した。

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