第58話

まだ日暮れには早い時間帯だって事もあり、勇気はすぐに見つける事ができた。


 一人で電車に乗って帰ろうとでもしていたのか、駅と須賀さんの畑の近くにある例の小高い丘。そのてっぺんでふてくされた表情をして突っ立っている。それを見てつい笑っちまいながら、俺もゆっくりと丘に登り始めた。


「瞬間移動の護符を使って来たんなら、帰りもそれでないと結界を越せねえぞ?」

「ついてくんなよ」

「俺のとっておきの場所に勝手に来たのは勇気だろ?」


 すぐ側まで近付いていけば、俺と顔を合わせたくないのか勇気はそっぽを向きながらどかりと腰を下ろす。こうして見てみれば、やっぱあやかしの子孫なんて関係ない年相応の子供なんだなと安心して、俺もその隣に腰を落とした。


「……言っとくけど、さっきの事謝んないから」


 拗ねた口調で、勇気が言った。


「あのじいちゃんがどんなに偉いあやかしだって言われても、僕にはただのハゲジジイにしか見えないし。お兄ちゃんだって家業主とか言ってるけど、ただのお兄ちゃんじゃんか」

「ぷはっ、言い得て妙だな勇気。確かに俺は痣がある以外はただの人間だし、うちのジジイもハゲなのは違いねえよ。おまけにジジイの奴、金髪で若作りしてるんだぞ? 日和ってハーフモデル知らねえか?」

「知ってる、うちのクラスの女子がカッコいいってよく騒いでるよ」

「その日和が、あのジジイ」

「嘘っ、マジで!?」


 日和とジジイの見た目があまりにも違いすぎるから、とても信じられなかったんだろうな。今の今までそっぽを向いていたくせに、今度はものすごく驚いた顔で振り向いてくる。コロコロと表情も態度も変わって、本当に子供らしいと思った。


 ああ、本当だよと答えてやれば、勇気はやられたと言わんばかりに大きなため息をつきながら、ごろりとその場に寝転んだ。


「知ってたらお茶ぶっかける前に、変化して写真撮らせて下さいってお願いしたのになぁ」

「ははっ。外面はいいジジイだから、頼めばサインもしてくれたかもな」

「そしたら、クラス中の女子がうらやましがっただろうな。特に志穂しほちゃんが大ファン、だか、らっ……」


 そこまで話した途端、急に勇気の声のトーンが変わった。もしかしたら、自分でも言うつもりがなかった女の子の名前を口にしてしまったからか? それきり静かになった勇気の顔を覗き込むようにして見てみれば、案の定、ぎゅうっと唇を噛みしめて何かに耐えるような表情をしていた。


「ねえ、お兄ちゃん」


 少しの間、押し黙っていた後で、勇気がぽつりと尋ねてきた。

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