第51話
「あの、すみません……。こちら、綾ヶ瀬様のお宅で間違いないでしょうか?」
玄関のドアの向こうから聞こえてきたのは、凛とした感じの涼やかな女の人の声だった。今まで一度も聞いた事ないし、わざわざうちで合ってるかと尋ねてくるほどだから、十中八九どこかよその町からやってきた何かのあやかしの子孫である事は間違いないだろうけど、俺は妙な違和感を覚えずにいられなかった。
確かに、ジジイがうちの事をいろんなあやかしの子孫達に話して回ってはいたし、相談に乗ってもらいたいっていう連絡が増えた事には違いないけど、よその町で暮らしている奴らが
「……そうだけど。でもあんた、ジジイの付き添いなしでどうやって駅前の結界抜けてきたんだよ?」
うちに繋がる瞬間移動の護符をもらえるのは、ジジイと家業主の正式な許可を得られた上で、託児所への入園が決まった者だけに限られている。だから双奈や生方さん以外の、例えば相談だけしたいという奴らに至っては、ジジイがその都度付き添いという形で送り迎えをしなければ、うちの玄関をノックどころか、駅前の結界に阻まれて綾ヶ瀬村に入る事すらできない。それくらい、綾ヶ瀬公麿が生涯をかけて練り上げ、千年もの間、維持し続けてきた結界は強力なものなんだ。
そのはずなのにどういう事だと俺が思うよりも、そしてその女の人が答えるよりもずっと早く、ジジイが低い声で口を挟んだ。
「この気配……貴様ら、
「その節は、曽祖父が大変お世話になりました。ぬらりひょん様」
「何、過ぎた事よ。奴には後ほど、お前達は元気に暮らしておると伝えておこう」
「ありがとうございます」
女の人が玄関の向こうで深々と頭を下げているような気がして、俺はほんの少しだけほっとした。まだ緊張はしているみたいだけど、ジジイがこうやって話してるんだから、どうやら悪い知り合いって訳でもなさそうだ。
「優太、入れてやれ」
ふうっと一つ大きな息を漏らして、ジジイが言った。
「久々の気配に、さすがのワシもビビったわ。まさかここまでの気配を、あの年で放つとはな」
「……いいのかよ?」
「牛鬼の子孫であるなら、大丈夫じゃ。昔、ワシが渡した瞬間移動の護符を使ったのじゃろう」
そういう事ならと納得した俺は、さっさと玄関の鍵を開けてドアノブを捻った。
「どうぞ」
「お邪魔します……」
開いた玄関のドアの向こうに立っていたのは、三十代そこそこかと思えるスレンダーな女性ともう一人。彼女の手に引かれて、小学校中学年くらいの男の子が立っていた。
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