第49話
今日も今日とて、「あやかし専用託児所」はうるさい事この上なしだった。
午前中は元々が自由時間だから、ある程度騒がしい事にはだいぶ慣れてきた。とりあえず、子供達が和室と庭先以外に出ていかないように気を付けていればいいから、余裕がある時なんかはパソコンを使って就活用の資料を集めたり、卒論のデータをまとめたりなんて事もできるようになった。
だけど、やっぱ一番憂鬱に思えるのが、昼メシの後。午後から始まる異能力制御訓練のお時間だ。一人一人に合わせた異能力を抑える訓練メニューを前の日までに考えておいて、それを午後の時間にやらせてみる。古文書や、ばあちゃんや親父の成長記録ノートを参考にしているから、少なくともそれなりに効果が出ると思ってたんだけど……。
「……優太ぁ。このやり方だと俺、首も肩も痛い~!」
そう言って、つらそうに顔をしかめながら自分の首や肩を揉む六郎。ちょっと揉んでやれば、確かに言う通り、六郎の首も肩もバキバキに凝り固まっていた。下手すれば母さんよりひどいかもしれない……。
「お前、異能力を出すのも抑えるのも全力でやり過ぎ。水道の蛇口をちょっとずつ捻るようなイメージで……」
「優太先生、これ見てよ!」
「……あ、麻衣。すげえな、もうそんなに切り絵がうまくなったのか」
「えっへん! ねえ、そろそろすり鉢の使い方も教えてよ! 練り薬の作り方も!」
「ああ、分かった。じゃあ、まずはそのハサミを片付けて……あっ、双葉! 比奈子も何やってんだ!?」
「伊達さんちのお兄ちゃんのお手伝い~」
「今すぐやめろ~!」
自分の訓練を放り出しておきながら、にぱっと無邪気な笑顔でそう答える双葉。双葉の背中には比奈子がおんぶ紐でぐるぐる巻きにされていて、そんな二人を伊達さんちの坊主が背中に乗っけている。その状態で、庭でクラウチングスタートの構えを取っていたから本当に焦った。うちの庭を荒れ地に変える気か!?
「だってさぁ。昔、ご先祖様が子泣きジジイってあやかしから直々に習った特訓メニューだから、絶対に受け継いでいくようにって、うちに残っている遺言書に書いてあったから……」
「昔は昔、今は今だ。人間だって、今はウサギ飛びなんかしないんだぞ。立派なスプリンターになりたいんだったら、時代に合わせた特訓をしような?」
むくれた顔で間違った特訓をしようとする伊達さんちの小僧を戒め、正しいメニューを教えてやるのも一苦労。ああ、そうだ。さっきパソコンに、オサキってあやかしの子孫だっていう
こんなふうにぐちゃぐちゃ考えながらも、俺は何とか一人でやっていた。
この時は、まだ気付いてなかった。あと数時間後に、とんでもなく厄介な事情を抱える子供が一人やってくる事になるだなんて。
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