第46話
昨日、須賀さんが差し入れてくれた採り立て新鮮の夏野菜であるトウモロコシを、子供達はかなり気に入ったようだった。ただ、醤油をさっと塗って網で焼いただけなのに、須賀さんの手塩にかけた育て方も相まって、皆夢中になって食べ尽くした。その中には真央ちゃんの子供らしい笑顔もあって、本当によかったなと思った。
「優太お兄ちゃん、今日はありがとうね」
最後に瞬間移動の護符を使って帰る時、真央ちゃんはそう言って俺に何度も手を振ってきた。自分の将来の夢を堂々と話して、これからはそれに向かって何の遠慮もなく進む事ができるんだ。そんな姿がうらやましいくらいにまぶしく見えて、俺も三人の姿が見えなくなるまで、何度も手を振り返した。その後、六郎の「優太ってロリコンだったのかよ」という言葉には、思いっきりジャイアントスイングをかましてやったけど。
「……へ、へんっ。優太の技なんて、俺の父ちゃんのロングネックスイングに比べれば、どうって事ないもんね。明日、覚えてろよぉ! バーカバーカ!」
午後五時過ぎ、最後まで残っていた六郎を母親が迎えに来たけど、その時の捨て台詞も子供らしくてかわいいもんじゃねえかとも思った。まあ、ロングネックなんて直訳したら「長い首」になるから、あいつの親父さんがどんな技を繰り出すのかまでは想像するのをやめたけど。
六郎も帰って、やっと静かになった「あやかし専用託児所」。さて、今日の日誌でも付けるかと家に入ろうとしたけど、それより一瞬早く背中の向こうでまた例の気配を感じた。そして。
「よう、優太。聞いたぞ、無事に手長足長の家庭問題を解決したってな。さすがワシの子孫じゃな♪」
テニスラケットとボールが手元にない事だけが非常に悔やまれる。せっかく若作りしていない元の後頭部にスマッシュをぶち込んでやれる絶好のチャンスだったっていうのに!
せめて罵詈雑言の一言や二言でも言ってやんなきゃ気が済まなくて、俺は気合を入れてから「このクソジジイ……!」と言いかけて、そのまま固まった。
「……すみません! 私、
「ちょっと聞いてよ! うちの親父ったら自分は官僚専属のSPやってんのに、娘の私には万引きGメンがお似合いだなんて言うのよ!?
「あの……僕、
そこにいたのはジジイだけじゃない。年齢も性別もバラバラなあやかしの子孫も数人連れてきてやがった!
「まあまあ、そう急いてやるな」
俺がふつふつと怒りのボルテージを上げていく中、ジジイは実にのんきな声色で焦る彼らを宥めていた。
「
そして、ホロリといった擬音が付きそうなほどしおらしい泣き真似。そうか、これがジジイの「なりきり」のコツか。
俺はそんな事を思いながら、ジジイの膨れ上がった後頭部をこいつで殴りつけてやろうと、玄関先に立てかけられてあった古ぼうきの柄をしっかりと掴み取った。
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