第45話

「ほら、これ見てみろよ」


 俺の声にぴたりと騒ぐのをやめた二人が、一斉に目を向ける。二人が見つめる俺のスマホの液晶画面には、色とりどりのマニキュアを施した手の爪や、ペディキュアを塗った足の爪の写真をたくさん写し出していた。


「真央ちゃん、これ見て思ったそうだぜ? これなら、手も足もきれいにしてあげられる。手長足長、両方を選ぶ事ができる。パパとママの子供である事を、もっと誇りに思えるって」


 子供って、すげえなって思った。


 普通の人間の子供でも、あやかしの血を引いている子供でも、大人とは全然違う解釈や観点を持っていて、それを自分なりにうまくまとめ上げ、時には大人をも退けられるほどの力を持つ事ができるなんて。その証拠に繁足さんも伸子さんも、我が子のここまでの決意を聞いた事ですっかりおとなしくなった。


「そうか、あの真央が……」


 やがてぽつりと、繁足さんが言った。


「いつまでも自分の意見を言おうとしないおとなしくて小さい子供だとばかり思ってたけど、あの子はあの子なりにちゃんと成長してたし、しっかり考えてたんだな」

「……そうね。むしろ私達の方がみっともないケンカばかりして。これじゃ、どっちが子供なんだか分かりゃしないわ」


 伸子さんもそう言うと、やがてうるうると潤んだ目をしながら繁足さんの手を取った。


「ごめんね、繁足。今までさんざん古臭いだとか時代錯誤だなんてひどい事を言って。真央があそこまでしっかりした子になったのは、繁足が真剣に娘の事を考えてくれてたおかげよ。あなたは立派な父親だわ」

「俺の方こそ。やれ頭が悪いだの、分からず屋なだけの教育ママもどきだの、傷付けるような事ばかり言っちまって。お前こそ、真央に必要な母親だ」


 そう言って、繁足さんも伸子さんの手を握り返す。……おい、確かに美男美女が互いを見つめ合って手を取り合うのはそれなりの絵面にはなるけど、誰の目の前でここをどこだと思ってるんだよ!? 変な雰囲気を出し始めるな!!


「んっ、んう!」


 思いっきりわざとらしい咳ばらいをしてやれば、手長足長の血を引くバカップルの夫婦はちょっと恥ずかしそうに互いの手を離す。それと同時に、今の柱にかかっている掛け時計がちょうど午後三時を教えてくれた。


「おやつの時間だから、皆を起こしてくる」


 俺は椅子から立ち上がりながら言った。


「よかったら、真央ちゃんと一緒に食べていけよ。須賀さんの所のトウモロコシを焼いただけのもんだけど」


 台所の方から香ばしい匂いがしてくる。夫婦は口を揃えて「いただきます」と満面の笑みを浮かべながら言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る