第38話
「真央は将来、何かしらのスポーツ選手にするべきなんだよ! 俺に似て、ものすごく運動神経もいいし、今から足長の血をうまく作用させればオリンピックの金メダルだって夢じゃねえ! 引退後は俺と同じくモデルの道に入って、ゆくゆくは芸能界を大手振って歩けるように……」
「何言ってんの、真央は私に似てるわよ! ちょっと教えただけで料理や裁縫、編み物はおろか、パソコンのプログラミングまでできちゃうんだから。真央はそっち方面より、頭を使っていろいろ手がける堅実な仕事に就かせるのが一番いいわ! その為の手長の血でしょうが!」
何とまあ、親バカ丸出し全開という奴で。
本来二人で一組のコンビあやかしだった手長足長。その両方の血を引くという非常に珍しい特色を持った真央ちゃんは、異能力の方も同じように両方引き継いだ。手先が器用で何でもそつなくこなすわ、運動神経抜群で体育の授業はどんな種目でもぶっちぎりで一番を獲りまくるわ……。そのせいで、繁足さんと伸子さんの育児方針がおもしろいくらい別々となった。
元々、綾ヶ瀬家を頼ろうとしない一族だったし、肝心の真央ちゃんは双方の異能力を遺憾なく発揮しているわりには意外と内気な性格をしているそうで、自分の口からはこの先どうなりたいといった旨の言葉を言った事が一度もない。それらが繁足さんと伸子さんがさらに揉める原因となって、夫婦ゲンカが絶えなくなった。
「そんな毎日で、俺もそれなりに疲れてた時なんだよ。日和様と仕事先で出会ったのは」
ふうっと一つ息を吐いてから、そんな言葉で一度話を切る繁足さん。まあ、分かっていた事だけど、できる事なら最後までジジイの名前は聞きたくなかった……。
「……そ、それで? うちのジジイが何を……」
口元を引きつらせながら、俺はそう尋ねざるを得ない。すると、繁足さんはさらにふんっと大きな鼻息を立てて、きらきらとしている大きな両目を俺に向けてきた。
「いや、最初はな? 調子乗ってる金髪モデルが来たと思ったんだよ。新人の分際でトップモデルの俺と一緒に仕事とか身の程知らずがと思って、ちょっと恥かかせてやりたくて足を引っかけようとしたんだけど……」
コンマ一秒ともたずにやめたらしい。俺にとってはただの若作りクソジジイでも、繁足さんからすればあやかしの総大将だった奴だもんな。例えその場で初めて会って、しかも姿を変えていたとしても、あやかしの子孫特有の肌感覚ってもんで「日和=ぬらりひょん」だと分かっちまったらしい。
「それでまあ聞かれるままに、俺達家族の事を話したんだ。そしたら日和様が、このあやかし専用託児所の事を教えて下さったんだよ。ちょうど新しい家業主の研修中だし、たっぷり経験を積ませてやりたいから、遠慮なく訪ねていくらでも相談していいぞとまで言って下さってな」
……あんのクソジジイ!! たぶん、つーかほぼ100%の確率で「なりきり」使って、繁足さんに誘導自白させやがったな!? ただの興味本位で人様の家庭事情に首を突っ込みやがって!! しかも、自分の手に負えねえと思って、俺に丸投げしやがった!! マジムカつくし、許さねえ!! 今度会ったら、あの盛り上がった後頭部に思いっきりスマッシュぶつけてやらあ!!
心の中でこれでもかってくらいにジジイを罵りまくる俺。それに気付いたかどうか分からないけど、伸子さんが苦笑しながら俺に「ごめんね?」と話しかけてきた。
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