第28話
予定より三十分以上遅れて、午後の時間を始めた。
何度も言うけど、午後からが「あやかし専用託児所」の本領発揮だ。午後は親が迎えに来るまで、ひたすら子供達の異能力に対する特訓の時間に充てられている。
比奈子はまだ赤ん坊だから、さほどの特訓はしない。ただ癇癪泣きをしないようにあやすだけ。そうでないと、ふとした瞬間に大泣きした時、フクロウみたいな羽が背中から出てきちまう。
六太はもう自由自在に首を伸ばす術を覚えてるようだから、今度は首をムダに伸ばす事なくあたりを見渡す訓練。それで360度どの角度も見渡せる視野を手に入れ、最終的には一切首を伸ばす事のないよう目指す。
あと、
古文書やばあちゃんと親父の成長記録ノートを参考に、それぞれにやってもらう事を伝えていたら、さっき俺を盛大に痺れさせてくれた張本人が、ツンツンと俺の服の裾を引っ張ってきた。
「優太ちぇんちぇ。どうしても、こっちのお口で食べなきゃめーなの?」
そう言いながら俺を見上げてきた双葉の後頭部は、ついさっき母さんに頼んでしっかりと髪を結ってもらった。そのせいでもう一つの口は出てこれず、双葉は小さな両手に持った箸と金時豆十粒が入った小皿を小刻みに震わせていた。
「うん、そう」
俺はこくんと頷いた。双奈にも最初に頼まれた事だけど、まずは双葉の食欲を少し落とす訓練を始めようと思った。
「もう一つの口を使わないで、普通の口で食べるんだ。お箸も使ってな」
「でも双葉、お箸まだ上手に使えない……」
「だからっていつまでも手づかみやフォークだけなのはダメだし、ましてや外でもう一つの口を出すのもダメだ。お箸を使って、ゆっくりもぐもぐ食べるんだ」
「んぅ……」
不満げな声を漏らしてるけど、自分の異能力が決していつも通用する訳ではないという事は少なからず分かってるみたいだった。しぶしぶといった感じだったけど、それでも何とか箸を使って金時豆を食べようと、双葉は頑張っていた。
「頑張れ、双葉。人差し指と中指でしっかり支えて、でも焦んなくていいから」
「んぅ……!」
結局、双葉は一時間かけて、十粒中三粒の金時豆を落とさずに口まで運んで食べる事ができた。残りは床に落ちたり潰れたりしちまってたけど、「今度はちゃんと全部食べる!」と宣言していた双葉の顔は、どこか誇らしげに見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます