第二章

第23話

うちの先祖である綾ヶ瀬公麿とぬらりひょんの娘との間に生まれた子供は、人間ともあやかしとも呼べる存在だった。


 分かりやすく言うなら、見た目はほぼ人間と変わりないんだけど、持って生まれた才能は人間のそれとは大きくかけ離れてるって奴だ。公麿と娘の子供は、成長するごとに祖父であるぬらりひょんの異能力『なりきり』を発揮するようになった。


 とはいっても、純粋な血を引くあやかしではないのだから、『なりきり』を使いこなす事は難しかったらしい。祖父みたいにうまく誰かの心を魅了する事はできず、時と場合に合わせて体を変化させる事もできない。せいぜいがその場しのぎくらいの効果しかなかったから、効き目が切れた人間から罵倒や叱責、時に暴力を振るわれる事もあったそうだ。そして、その頃には同じような「どちらとも呼べる子供」が人間の世界に数多く現れるようになった。


 理解のある優しい人間と巡り合い、自分達のように子を成したあやかしもいるのだと、娘はひどく喜んだが同時に不安にも苛まれた。


 自分達の子はもう六歳にもなろうというのに、いまだに『なりきり』を使いこなせない。そのせいで、同じ年頃の人間の子供達ともうまく馴染めずに友と呼べる者が一人もいなかった。


「こんな怖くて寂しい思いをするのなら、いっそ私はあやかしの世界で暮らしとうございます」


 一度だけ、子供が泣きながらそう訴えてきた時、娘は本当にひどく悩んだそうだ。確かに安倍晴明が作った新しい世界に連れていってやれば、これ以上つらい思いをする事はないかもしれない。だが、うまく使いこなせない異能力と変化もろくに叶わない肉体を持つ我が子が、果たして純粋な血を持つ本物のあやかし達に受け入れてもらえるのだろうか、と……。


 悩みに悩んだ上、娘は夫に我が子の苦悩を打ち明けた。公麿も人間の世界に「どちらとも呼べる子供」が増えてきた事を知っていたし、一番懸念していた事が起こってしまったと心を痛めた。


 やがてこのような事態になるだろう事は覚悟していたが、思っていたより早くその時期が来てしまった。このままではやがて帝の知るところになり、新たな討伐命令を下されるやもしれぬ。そうなれば、妻も我が子も無事ではすまぬ。他の何の罪もない子供らも皆殺しにされるだろう。


 その事を何よりも悲観した公麿は、急いでぬらりひょん――もといジジイに、以前話した提案を実行する旨を伝えた。人間とあやかしの間に生まれた「どちらとも呼べる子供」達を預かり、どのような生き方でもできる道を教える場をすぐに設けると。


 そうやって、綾ヶ瀬村の一番奥に建てられた綾ヶ瀬家のさらに一番奥の間取りにある和室が、「あやかし専用託児所」となった。

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