第20話
「よう、プチ家出とやらはもうしまいか?」
家に戻ると、ジジイが真っ赤な顔をしながら食卓で晩酌をしていた。さほど強くないくせに絡み酒と来るものだから、本当に面倒くせえ。双奈と双葉を連れて帰ってこなくて大正解だったなと思いながら、俺は「そんなんじゃねえよ」と答えてジジイの前に立った。
「親父と母さんはもう寝たのか?」
「ああ、もうぐっすりよ。全く、人間は早寝過ぎてつまらん」
つまらなさそうにそう言うジジイの手元には、空になった
こんな散らかり放題の食卓で夜食なんて食う気になれず、俺は食卓のすぐ側にある戸棚から買い置きのカップラーメンを取り出し、そのまま湯の入っているポットの元へと向かった。
「優太、ワシは明日帰るからな」
ポットのロックボタンを解除して、湯を注ぐ。こぽこぽと独特でどこか心地いい音に紛れ込ませるようにして、ジジイがそう言ってきた。
「大がかりなファッションショーに出るんだろ? だったら、酒が残らないようにしろよな」
振り向きもせずにそう言ってやる。どうせ夕方か、遅くても明日の朝のニュース番組で大々的に報道されるだろうから、ネット中継配信なんか死んでも見てやるか。そんな俺の気持ちを見透かしたかのように(いや、ぬらりひょんなんだから、絶対に見透かしてる)、ジジイはケタケタと笑いながら言った。
「本当にお前は、名前の通り優しい奴だなあ」
「そうかよ。損ばかりしてると思うけどな」
「いいや、そればっかりはねえ。さっちんがつけてくれた名前なんだ、大事にしろや」
湯を注ぎ終わったタイミングでジジイがそんな事を言うもんだから、危なくカップラーメンをひっくり返しそうになった。思わずにらみ返してやったが、ジジイは全く動揺する事もなく、またお
「……早く寝ろよ、クソジジイ」
「ああ。お休みな、優太」
俺はカップラーメンと手近にあった箸を掴むと、足早に自分の部屋へと向かった。
定期的に母さんが掃除をしてくれていたのか、四年ぶりに入った俺の部屋はずいぶんと小さっぱりしていて、少しも埃っぽくなかった。
Fラン大学といっても必死になって受験勉強でかじりついていた机も、小学生の頃から使っていた少し大きめのベッドも、小遣いをためて買い漁っていたマンガ本が詰め込まれた本棚も全く変わっていない。さすがに壁に貼りまくっていたポスターは古くなって色褪せたせいか処分したようだったけど、俺は母さんに多大な感謝をしながら机の前にある椅子に座って、しょうゆ味のカップラーメンを啜り出した。
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