第15話
「さて、そろそろ真面目な話をしようかの」
ジジイはそう言うと、どかりと親父が寝転んでいる布団の側に座り込み、俺の方をじいっと見つめてきた。
「優太、こいつぁ冗談抜きの話だ。今までてめえの親父――
「……」
「右手の風車の痣は、ワシの血筋をより濃く引き継いでるって証だ。それさえ見せりゃ、大抵のあやかしは信頼して話も聞いてくれる。どんな護符よりも強力なお守りになんだよ。だから、てめえが綾ヶ瀬家の家業を怖がる必要はこれっぽっちも……」
「そんなんじゃねえ」
「あ? 何だって?」
「俺はあんたらに関わる事なく、ごくごく普通に生きたいだけだ」
俺は、親父の寝ている布団の向こうに鎮座している仏壇を見た。四年ぶりに見るばあちゃんの位牌は母親が手入れをしてくれているのか、亡くなってからもう十六年以上が過ぎようとしているのに、特に傷みもしていなければ色褪せている事もなかった。
「……皆で、よってたかってばあちゃんばかり頼りやがって」
そんなばあちゃんの位牌からジジイに視線を戻して、俺は言った。
「いくら綾ヶ瀬家の家業だからって、何でもかんでもばあちゃん一人に押し付けてきただろ! そのせいでばあちゃんはろくにこの村から出られなかった! 旅行一つ満足にできなかったし、友達とちょっとそこまでの散歩でさえも遠慮して、ずっとこの家にいたんだぞ!?」
「……さっちんは歴代の家業主の中でも、ひときわ秀でてたからなぁ。そのせいでさっちんには苦労をかけ通しだった事は、あやかしの元総大将として詫びを入れるぜ」
「俺にはできねえ! ばあちゃんや親父……歴代の家業主みたいにやっていく自信もつもりもねえ! だから、継承の儀式は死んでも受けねえ!!」
「優太。日和様のお気持ちも考えてさしあげろ。日和様は、公麿様とのお約束を果たしていきたいだけで」
「親父は黙ってろ。千年前ならいざ知らず、今の時代、純粋なあやかし達なんてほとんどこっちにいないだろうが!」
俺のこの言葉に、親父だけじゃなくてジジイも押し黙る。そう、
だけど、その純粋なあやかし達が
「連休が明けたら、大学に戻るから」
そう言ってやると、俺は親父が止めるのも構わずに和室を飛び出した。ジジイの大きなため息の音が聞こえてきたが、知った事か。
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