第6話
『そりゃ父さんだって、できる事なら息子に好きな人生送らせてやりたいけどなぁ?』
やがて、右手を見る事に飽きた親父は、ずいっと画面に顔を近付けるようにしてまくし立ててきた。
『我が綾ヶ瀬家は、選ばれた一族なんだぞぉ? ご先祖様がこの世の全ての為にと思って開いて下さったありがた~いお勤めを、千年もの昔から続けてきたんだ。あくまで「代理」でしかない父さんの代で潰すのは、ばあちゃんにも申し訳ないと思わないかなぁ?』
……ぐっ、早くも出しやがったな伝家の宝刀を。俺がどんなにばあちゃんっ子だったか分かっててしかけてくるんだから、本当にタチが悪い。
そりゃあ、ばあちゃんはすごい人だったと思う。子供の頃は全く訳が分からなかったけど、思い返してみれば、ばあちゃんはうちの家業を完璧にこなしていた。いや、親父もそれなりに頑張っていたと思うけど、しょせんは普通の会社勤めとかけもちしてやってたんだから、そこはやっぱり行き届かない所も多少はあったと思う。
でも、だからって。この令和の時代にうちの家業はどう考えても需要が少ないし、俺自身に何かしらのメリットがある訳じゃない。
何で綾ヶ瀬家は、代々、一子しか生まれてこない家系なんだよ。しかも、この風車の痣持ちが必ずしも生まれてくる訳じゃないっていうのも、どういう事なんだ。
「確かに、ばあちゃんにはちょっと悪いと思ってる。日和に至っては、ひたすら文句を言ってくる未来しか見えないし」
『だったら……』
「だ・け・ど! それとこれとは話が別! 俺は絶対に家業は継がないし、いずれ生まれてくるかもしんない俺の子供にだって継がせない。親父の代で店じまいだって日和に言っとけ! いいな?」
『お、おいおいっ。日和様にそんな滅相もない事……』
親父が慌て出した時だった。ふと、液晶画面の向こうで母親ではない誰かの影がちらりと映った。
『あれ~? 綾ちゃん、もしかして優太と話してんのか?』
『おお、
『嫌な事は飲んで忘れようぜ、綾ちゃん! ほら、上物持ってきたから!』
『おお、やるねえ』
どうやら、ちらっと見えたのは、実家の近所に住んでいる須賀さんみたいだった。親父の数少ない飲み友達の一人で、村に一つしかないボロ駅舎の横にいくつかの畑を構えてたくさんの野菜を作っている。
よほどいい酒を持ってきてくれたのか、親父は俺との会話をコロッと忘れてくれたようで、須賀さんとの飲み明かしに入ってしまった。いい年したおっさん達の宅飲みなんか見る趣味もないので、ありがたく通話を終わらせてもらう事にした俺は、何の躊躇もなく終了ボタンをタップした。
CMでやみつきの味になるとか豪語していた塩とんこつラーメンは少し冷めてしまった上にのびのびになっていた。それを思いっきり大きく啜り込みながら、心の底から思った。絶対に帰ってやるもんかと。
翌日の昼の事だった。
母さんからの電話で、親父が腰の骨を折る大怪我を負ったという知らせを聞いたのは。
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