第2話

ばあちゃんの通夜には、本当にたくさんの人達・・が弔問に集まってきてくれた。俺の実家は辺鄙で小さな田舎の村だっていうのに、どこにこんなに住民がいたんだよって思うくらい、実にわらわらと。母さんが家の外に出て、わざわざ順番の整理券を配るくらいだった。


「ああ~、さっちん~! どうして死んじゃったのさ~! あたし、まだまだあんたに相談したい事が山ほどあったのにぃ~!! あんたなしで、これから先どうすりゃいいんだよ~!!」

「さっちん、実を言うとな。あんたは俺の初恋だったんだぜ。それなのによぉ、ちくしょう……」

「今まで本当にありがとう、さっちん。さっちんに教えてもらった事をバネにこれからも頑張るよ」


 どうやらばあちゃんは、に『さっちん』と呼ばれてたらしい。名前が幸子さちこだったから、それ自体は子供心にも納得できたんだけど、どうにも一つ変に思う事があった。


 先にも言ったが、ばあちゃんは本当に優しくて、誰に対しても面倒見のいい人だった。当然、友達も多い方だっただろう。だけど、弔問に来てくれた大半の人達・・の見た目というか年齢層は、どう見たっておかしかった。


 ばあちゃんが収められている棺桶にすがって泣き叫ぶ者、ばあちゃんの事を思ってしみじみ語る者、心からの感謝を伝える者と反応はそれぞれ違っていたが、皆が皆、若いのだ。下手すれば俺の両親よりずっと年下にしか見えない奴だっていたし、何なら中学生くらいの年格好の少年もいた。そいつが日本酒の一升瓶を片手にばあちゃんの眠る和室に入ってきた時は、思わず肩をすくめて怖がってしまった。


「……また俺より先に死んじまいやがって。さっちん、あんたまで見送りたくなかったんだぜ?」


 ほら、あの世まで持ってけと、少年は一升瓶を棺桶の上にどかりと置く。そんな事したらばあちゃんが苦しくなると思った俺は、そいつの側まで駆け寄ると、その足を思いきり蹴ってやった。


「ばあちゃん、いじめんな!」

「……っ、おいおい。これはなかなか活きのいい跡取りじゃねえか」


 苦笑いを浮かべる少年のどこがそんなに怖いのか、両親は慌てて「申し訳ありません、日和ひより様っ!」と謝る。俺は絶対謝ってやるもんかと、少年をずっとにらんでやった。


「いや、いいって事よ。こいつには将来、俺らも世話になるんだ。これくらい活きがよくないと、さっちんやあいつ・・・の足元にも及ばねえ」


 そう言うと、少年は俺の右手を取って、手の甲にあるばあちゃんとおそろいの痣を見つめた。


「優太。てめえにはこれから先、ちょいと苦労かけさせちまうかもしれねえ」


 ばあちゃんと同じ事を、そいつも言った。


「でもな、てめえにしかできねえ事なんだ。さっちんの分まで、俺らを導いてくれ。この通り、よろしく頼まあ」


 ずいぶんと殊勝な表情で、頭を下げてきたそいつ。その言葉の意味を俺がちゃんと理解できるようになるには、まだまだ時間が足りなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る