第52話
雫にもらった冷却シートのおかげで目の腫れも治まり、ほんの少しだけ気分も晴れたのが油断した原因だと思う。まさか、週に一度のこの日をすっかり忘れていたなんて。
チャイムが鳴るまでHiroの小説を見ていた私は、教室のドアを開けて入ってきた新藤先生の顔を見て、思わず「しまった!」と声を出してしまった。幸い、隣の席の菊池君は相変わらず机に伏せて寝ていたし、チャイムの音に紛れて他のクラスの皆にも聞こえていなかったようだけど、新藤先生だけはにやりとした笑みを浮かべながら「さあ、教科書とノートをしまおう!」と声を張り上げた。
「小テストを始めるぞぉ!」
教室中から一斉に不満の声が次々に上がるが、これは毎回の事だった。ただ、いつもと違うのは、私はこんな幼稚なブーイングに参加してこなかったのに今日だけ、いや今だけはどうしても皆と一緒に騒いで阻止したかった。それくらい、今日は自信がなかった。
と、いうのも。
「今日の範囲は、ちょっと前に配った問題集から出してるからなぁ!」
まだ寝こけている菊池君の方をそれとなく見ながら、そんな事を言ってくる新藤先生。やっぱり、どこか意地が悪いと思った。
新藤先生が言う問題集っていうのは、「これからの授業の参考や予習に使えよ?」と言って一ヵ月前に渡してきた分厚いドリルの事だ。確かに内容は今後の授業の参考や予習に充分使えるものだったし、うまくこなせば先々の受験にだって役立つかもしれない。粋な事をしてくれると思っていたのに、まさかこういう使い方をしてくるなんて……。
クラスの皆が慌てて机の中から問題集を取り出していくのを見て、私もそれにならう。正直、こんな分厚い中身なんて覚えてないし、まだ解いてない問題だってある。せめて、せめてほんのちょっとでも覚えて小テストに活かさないと……!
クラスの皆と同じ行動を取っていれば、新藤先生はまたにやりと笑いながら、「まあ、範囲が大変だろうから五分だけ暗記タイムをやろう。もし今回のテストで満点を取る奴がいれば、二学期まで小テストはなしにしてやってもいいぞ?」なんて言い出した。
また、教室中に不満の声があがる。これは当然だと、私も一緒になって騒いだ。
無理だよ、こんなの。無謀にも程度ってものがある。この問題集、何ページあると思ってんの!?
絶対に菊池君への嫌がらせが大半の理由で、今日の小テストを作ったんだ。本当に意地が悪い。何とかして鼻を明かしてやりたい。
そんな思いで、急いで問題集のページをめくり続けていた時だった。
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