第45話

「……どうだ、青葉。学校や生活の方は?」


 今日は、二ヵ月ぶりの父との面会日だった。相変わらず、くたびれた上着しか着てこない人だ。会う場所だっていつも同じファミレスだし、「好きな物を注文していいよ」と言ってくるわりには、毎回日曜の午後三時なんて中途半端な時間に待ち合わせるものだから、結局パフェくらいしか頼めない。父が頼むのも、いつもコーヒー一杯だけ。


 そんなにあの人ともみじちゃんとの生活が楽しいんだと思いながら、私は毎度おなじみの質問に対して「別に」という言葉から返した。


「いつも通りだよ。学校と塾の往復の毎日、それ以外は何にも変わってない」

「そうか。全く、あいつは……」


 口の中でもごもごと言ってから、父は目の前のカップを持ち上げてコーヒーを啜る。甘党なのも相変わらずのようで、角砂糖を三つも入れていた。


「相変わらずだなあ、とか思ってる?」


 自分の事を棚に上げてよく言えるものだとは思ったけれど、私の次の句は父にこう問いかけるしか選択肢がなくなっている。だからその通りにしてみれば、案の定、父はうんうんと大きく頷いてみせた。


「あいつの教育熱心な性分は買っているが、何事も容量ってもんがある。あいつの場合、それをあっという間に超えてしまうきらいがあるから心配なんだ」

「どっちを心配してるって? お母さん? それとも……」

「もちろん、青葉の方に決まってる」

「嘘ばっかり」

「嘘なもんか」


 父が、私の顔を真剣な眼差しで見つめてくる。まるで浮気疑惑を持たれた彼氏が彼女に弁明しているみたいで、とても滑稽だ。どうしてあの頃、父はこんなふうに母と向かい合えなかったのか今でもとても不思議だ。


「私は別に平気だし。そっちこそどうなの?」


 私も、目の前にやってきたストロベリーパフェをスプーンですくってひと口食べる。あまり楽しくない会話をしてるっていうのに、口の中いっぱいに広がっていく苺の酸味とクリームの滑らかさがとても心地いい。もみじちゃんがこれを好物とするのも頷けた。


「お母さんから聞いたよ。もみじちゃん、お受験するんだって?」

「……っ、あいつめ、余計な事を」


 わざとらしく「しまった」とばかりにしかめ面をする父に、だったら話さなきゃよかったじゃないという事はできなかった。分かってたからだ。次に父が、私に何て言ってくるかだなんて事は。伊達に十年近く、この人の娘をやってこなかった。


「青葉。実はな、お前に頼みがあるんだ」


 カップをソーサーに置くと、父ができるだけ神妙な声色を出しながら、さらに私をじっと見つめた。

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