第32話
「わ、私っ、菊池君みたいになりたかったのっ!」
「は……?」
「ずっとずっと妬ましくって、何で菊池君ばかりって……生まれ変われるなら、やり直せるなら、菊池君みたいになりたいって何度思ったか……。だから、私……」
ダメだ、何言ってるんだろ私。
どうして机の中を漁っていたのかちゃんと説明して、しっかり謝ろうって思うのに、うまく言葉が選べない上に、焦って口から出るのは支離滅裂な事ばかり。その分、頭の中に浮かぶ映像っぽいものは鮮明で、母や父、そしてあの人やもみじちゃんの姿が何度も出てくる。
皆の事、そして今までの事を話してしまおうか。そうすれば、少しは許してもらえるかも……何て、ひどく嫌な気持ちが芽生えそうになった時だった。
「……品川。お前、バカなの?」
それこそとんでもなく呆れたような菊池君の声が聞こえてきて、私はぱっと彼を見る。菊池君は大きく両目を見開いて、私をしっかりと見据えていた。
「何? お前、意外と流行に乗っかっちまうタイプ?」
「え?」
「今、結構流行ってんじゃん? 転生ものとか異世界に飛ばされるとか、タイムリープしてやり直しするとか、そういった感じのドラマやマンガ」
あ~あ……と大きく天井に向かって両腕を突き上げ、背筋を伸ばしていく菊池君。そして、その両手で頭の後ろを押さえるように組むと、ぎしりと音を立てて椅子の背もたれに体重を預けた。
その通りかも、と思う。確か今話題になっている月9ドラマって、新進気鋭の若手俳優が主役を務めているタイムリープ系の話じゃなかったっけ? 恋人の死を回避する為に、ありとあらゆる手段を使って何度も助けていくって感じの。あ、それに今週末に公開される映画も、転生系の異世界ファンタジーだったような……。
でも、何でそんな事を言ってくるんだろう? 今は、私が菊池君を妬んで、その勉強法を知りたかったから机の中を漁ってって話だったのに、何でいきなりそんな話に飛躍したの? ……なんて、考えていたら。
「あり得ないんだよ、そんな都合のいい事なんて絶対に」
ぞくっとした。
まるで何かに対して怨念めいたものでも抱いているかのように、ぎりっとこっちにまで聞こえてくるほど歯ぎしりの音を立てた後で、菊池君は忌々しげにそう言い切った。
「き、菊池君……?」
「俺、ああいう系の話は大っ嫌いなんだ」
何にも書かれていない黒板の方をじいっとにらみつけるように見つめながら、菊池君は言葉を続けた。
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