第21話
放課後、いつもの公園で会えないかな?
そんなメッセージなんて無視してしまえばいいのに、どうして今朝の菊池君のあいさつ同様、拾い上げてしまうんだろう。私は自分のマヌケぶりを心底恨みながら、高校からふた駅ほど離れたある児童公園の中へと入る。子供の数が減ってきた事、そしてそんな数少ない子供達への安全を何より優先するとの事で、ジャングルジムとかブランコなどが撤去された公園の中は、一年前に比べるとずいぶん殺風景となってしまっていた。
さほど広くない公園の中を見渡してみれば、唯一無事と言える砂場で一人遊んでいる小さな子供がいた。
こっちに背中を向けているその子供は、何やら夢中になって穴を掘っている。傍らには水の入った子供用の小さなバケツもあり、シャベルを持つ小さな右手はすっかり砂まみれだった。
なかなか名前を呼んでやる気になれず、そのままゆっくりと砂場へと向かう。もしこの子が気付かず砂遊びにずっと夢中になっていたら、頃合いを見計らってこっそり帰るつもりだったけど、私の足音に目ざとく気付いた子供がぱっとこっちを振り返ったきた。そして。
「あっ、青葉お姉ちゃん♪」
「あ……」
「わあい、青葉お姉ちゃんが来てくれたぁ♪」
何がそんなに嬉しいのか、子供は砂場にぽいっと持っていたシャベルを放り捨てて立ち上がった。そして両手や服に付いていた砂をしっかり叩き落とすと、勢いを付けて私の両膝に飛び付いてきた。
「えへへ、青葉お姉ちゃ~ん♪」
「もみじちゃん……」
純粋な好意だけを乗せて私の名前を呼んでくる子供――もみじちゃんの存在がちょっとまぶしくなって、つい彼女の名前を呼んでしまう。するともみじちゃんはさらに嬉しくなったのか、私の両膝を捕まえている力をさらに強めてきた。
「ねえ、青葉お姉ちゃん。今日はいつまで一緒にいてくれるの?」
「いつまでって……」
私は公園の真ん中に立てられているポールのてっぺんに目を向ける。そこには時計が付けられていて、ちょうど午後三時半になったところだ。そして、そのポールの傍らにはあの人が立っていて、私に向かって軽く手を振っていた。
相変わらず無神経で、もしかしたら菊池君よりも腹立たしい人だ。でも、もみじちゃんがいる手前、それを露骨な態度として出す訳にもいかず、私は軽く会釈するだけであいさつを済ませた。
「五時までなら大丈夫かな」
母には、学校の図書室で勉強していたとでも言ってごまかそう。そんなふうに思いながら返事をすると、私達の事情なんて何にも知らないもみじちゃんは心から無邪気に喜んでいた。
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