第19話

「……隣、いいかな?」


 今日は母が早出だったから、お弁当を作ってもらえなかった。そんな時、私はいつも体育館の隣に設けられている食堂に行って、特製カツサンドセットを注文して食べるようにしている。値段の割にはボリュームがあって、その上ミニサラダとコンソメスープまで付いてくるからお得感がすごい。それが気に入ってずっとリピートしていたし、ひと口目から味わえるさくさく感を楽しみにしていたのに、今日のそのひと口目を雫の遠慮がちな声に邪魔された。


 びっくりしてカツサンドセットの乗ったプレートから顔を上げて見ると、そこにはお弁当箱を携えた雫が緊張気味に笑いながら立っていた。


「いいけど……」


 やっぱり、背が伸びたなと思う。この前会った時は気にする余裕がなかったけど、たぶん……いや、絶対に身長抜かれてるだろう。中学卒業まで、私の方が二センチくらい高かったのに。


 私の返事に「やった、ありがと♪」と喜びながら、雫が正面に空いていた席に座る。その時、長机の上に置いた小さめのお弁当箱が気になってしまって、つい話題に持ち込んでしまった。


「お昼、それだけで足りるの?」

「え?」

「さすがに少なすぎじゃない?」

「別に、ダイエットしてる訳じゃないよ? ただ、田之口先生から言われちゃって。もうちょっと体重減らした方が、さらにスピードを乗せて走れるって」

「だからって」

「大丈夫! 中身はうちのお店の余り物だから、量やカロリーは少なくても栄養満点!」


 ほら、と開けて見せてもらったお弁当箱の中身は、確かに雫の両親が定食屋で出している炊き込みごはんと惣菜が入っていた。この炊き込みごはん、私も中学まで何度も食べさせてもらってたっけ。醤油とお出汁の配分がすごく上手だったし、具材にも味がしっかり染み込んでて本当においしかった。


 そんな懐かしさにちょっと耽っていると、雫が「よかったら少し食べる?」なんて言ってきたものだから、慌てて首を横に振る。もうすぐ大会なんだし、今が一番しっかりした体作りをしなきゃいけない時期だ。それに私は急いでカツサンドセットを食べ終えて、Hiroの更新ページを見なくちゃいけないし。


「雫がしっかり食べなくちゃでしょ」


 そう言って、私は手に持っていた分厚いカツサンドにかじりついた。うん、やっぱりおいしい。ソースのかかり具合も絶妙だ。


 う~ん……と舌鼓を打ってる私に何を思ったのか、雫はまだお弁当に手を付けずにこっちばかり見つめてる。それがちょっと気恥ずかしくなった私は、ふた口目を飲み込んだところで「何?」と尋ねてみた。すると。

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