第4話
高校の校舎と体育館の横に沿うように造られた放課後のグラウンドで、煩わしいテスト勉強から解放された体育会系の部活動に張り切っている生徒達の声がこだましていた。うちの高校は学業とは別にスポーツにも力を入れていて、その枠での特待生も毎年受け入れているから、彼らが張り切っているのも頷ける。
もし、ほんの少しでも何かが違っていたら、私だって……。そんなふうに思ってしまいそうな頭をぶんぶんと強く横に振ってから、私は再び自転車置き場に向かって歩き出す。その矢先、できる事なら卒業まで顔を合わせたくなかった相手が、自転車置き場のさらに向こう側にある部活棟の方からやってくるのが見えた。
「……あ、青葉!」
「
そういえば、もうすぐ県内の陸上大会が始まるってプリントが教室の前の掲示板に貼られていたっけ。そんな事を思い出しながら、私は嬉しそうにこちらに駆けてくるトレーニングウエア姿の
雫とは、小学校からの同級生だ。中学三年間はずっと同じクラスで、陸上部にも一緒に入っていた。専門に取り組んでいた競技も同じ短距離走で、お互い抜きつ抜かれつと切磋琢磨しながら競い合い、中学最後の大会では同着一位で並んで表彰台のてっぺんに昇った。あの時の雫の「最後が青葉と一緒で、本当に嬉しい!」と言ってくれた言葉と満面の笑みは、今でもはっきり覚えてる。
そんな雫は、うちの高校にスポーツ特待生の枠で入学した。そしてすぐに県内でも有望な選手として注目され、全国レベルと称されているその実力は次の大会でも遺憾なく発揮されるだろうと期待されている。以前、校内新聞でそんな感じの取材を受けていた雫の記事を読んだ事があるけど、「そんな事ありません、ただがむしゃらなだけなんです」と答えている雫の顔写真は、よほど照れていたのか頬のあたりが真っ赤だった。
「久しぶり、青葉。中間テスト、どうだった?」
高校に入ってからは、もうずっと別々のクラスだ。スポーツ特待生枠のクラスは四組だし、一組の教室とは廊下の端と端で離れているから、なかなかすれ違う事もない。スマホでLINEは交換しているものの、何を話していいのか分からなくなってから、もうずっと連絡を取っていなかった。こうして話すのは、たぶん一ヵ月ぶりくらいだと思う。 そんな久しぶりに見る雫は、たいぶ日に焼けてきれいな小麦色の肌になっていた。
「久しぶり。うん、いつも通りだよ」
特に嫌味を含める事なく、そう答えた。実際、その通りなんだから、これ以上も以下もない。それを分かってくれている雫は「そっかぁ~」と言いながら、組んだ両の手のひらを後頭部に押し当てた。
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